個人個人の感じ方を分析し、快適に過ごしながら節電できる環境を目指すエネルギー管理(2/2 ページ)

» 2012年05月01日 12時15分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]
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ユーザーは反応を返してくれるか?

 今回の実証実験では、オフィスで働く人が室温や明るさといった環境についてどう感じているのかというデータを集める。温度、湿度、照度を感知するセンサーを接続したノートパソコンと、室温などの環境データや電力消費量の推移などを表示するソフトウェア「POEM(Personal Office Energy Monitor)」を利用する。

 POEMには、ユーザーが現在の室温をどう感じているのか入力する部分がある。図3はPOEMの画面だ。右上に雪の結晶のアイコンと火のアイコンがある。ユーザーはこの部分をクリックすることで、自分がどう感じているのかというデータを送信する。

PEB 図3 「Personal Office Energy Monitor」の画面

 しかし、室温などの感じ方のデータを送るために、アイコンをクリックするということは、人によっては面倒に感じるかもしれない。今回の実証実験の最大の目的は、ユーザーが手間を惜しまずにアイコンをクリックしてくれるかどうか、どれくらいの反応が返って来るかということを調べることだ。ユーザーが面倒に感じてアイコンをクリックしてくれなければ、データが集まりにくくなる。

 実証実験の期間は2012年4月9日から5月11日。この時期に設定したのは、本当に暑くなる前の快適な季節だからこそ、入力の手間を惜しまないかどうかを検証できるという狙いからだ。

ユーザーの入力に対する反応はいろいろ考えられる

 人によって、暑さ寒さの感じ方は異なる。人それぞれで片付けてしまっては何も分からないが、インテルは年齢、性別、人種などの違いによって、感じ方に傾向があるのではないかと見ている。人種による違いを調べるという目的もあり、今回の実証実験は日本だけでなくフランスでも進めている。

 データが集まったら、人類学者の見解を聞く予定だという。まず、室温をどう感じているかを入力する作業について聞く。人間にとってこの作業が、どの程度煩わしいものであるのかということについて人類学者の見解を聞きたいのだという。目的を明確にして納得してもらうことで、煩わしさをあまり感じなくなるのかということも確かめる。

 もう1つ、ユーザーの入力に対して、どう反応を返すべきか聞くとしている。誰かが暑いと感じてアイコンをクリックしたとき、空調機器の設定温度を下げるべきか、空調の吹き出し口のそばなど、部屋の中でも局所的に気温が下がっているところへ誘導すべきか、返し方はいろいろ考えられる。そして、返す反応によっては、オフィスの環境の作り方を変えなければならない。

 オフィスでは、空調機器を働かせても、どうしても気温分布にムラができてしまう。ムラをならして、全体的に最適な環境を作るべきか、あるいはムラを利用すべきか。

 暑いと感じている人の周辺だけ、一時的に空調機器を強く効かせて気温を下げるという方法も考えられる。ただし専門家によると、ごく狭い部分だけを冷やすということは難しい。フロアを25m2程度のエリアに分割して、それぞれ別々に制御することになる。暑いと感じている人がいるエリアの空調を強く効かせると、そのエリアにいるほかの人が寒く感じる可能性が高い。特別に気温を下げたエリア(あるいは部屋)をあらかじめ用意して、暑いと感じている人をそこに誘導するという方法も考えられる。

 以上のように、ユーザーの入力に対する反応を返すにも、考え方はいろいろある。インテルは人類学者から得た回答によって、空調の制御などをサービスとして提供するときの形が見えてくると考えている。

行動パターンをつかむ、居場所をつかむ

 さらにインテルは、室温の感じ方のデータを蓄積して分析することで、個人個人の行動パターンを予測できる可能性があると見ている。行動パターンをつかめれば、それに合わせて空調機器を制御するということも可能だ。

 例えば、食事の後や、白熱した会議の後などは人間は暑いと感じるもの。解析で個人の行動パターンをつかめば、このように暑いと感じる時間帯を予測できる。個人の行動パターンに合わせて、暑いと感じる時間帯の少し前からその人の周辺の空調を強く効かせておくこともできる可能性がある。

 個人の行動パターンを予測するだけでなく、個人の位置を特定し、その人がオフィス内のどこに移動しても快適な空間を作るということも視野に入れている。これには、一般的なノートパソコンなら必ず備えている無線LAN機能を利用できる。無線LANのアクセスポイントの位置と、電波の強さなどから、無線LANでつながっているパソコンの位置を特定する技術を利用するのだ。

 この技術を利用できれば、オフィス内のどこに人がいるのかが分かる。決まった座席がないフリーアドレスのオフィスでも、個人の位置を把握できる。

 人がいる場所をつかめれば、人がいないところも分かる。いない部分の空調を切るという判断もできる。

 年齢、性別、人種などによる感じ方の違いだけでなく、室温の感じ方のデータを解析し、行動パターンを予測するという考え方や、無線LANを利用して個人の位置を特定するという考え方は、コンピュータについて深く研究しているインテルならではのものだろう。

ノートパソコンとともにセンサーが増えていく

 BEMSを導入するときに、温度センサーを部屋に設置するとなると、その場所を決めるために検証しなければならないことがいろいろある。人手もお金もかかってしまう。

 今回の実証実験では、パソコンに接続したセンサーを利用しているが、インテルは今後、ノートパソコンにセンサーを内蔵できるようにしたいと考えている。センサー内蔵のパソコンが普及していけば、パソコンの価格を上げることなくセンサーを内蔵できるようになる。

 企業で使うパソコンをセンサー付きのものに入れ替えていけば、オフィス内のあらゆるところにセンサーがあるという環境を作れる。いろいろなことを調べ、準備をして部屋に温度センサーを取り付けるよりも、ずっと低いコストでセンサーを大量導入できるのだ。

 あとは、データを蓄積し、解析するサーバを用意すれば良い。これは、企業のニーズに合わせてデータセンター、自社サーバのどちらにも対応していく。電力消費量や個人の感じ方などのデータを社外秘とする企業もあるからだ。

 インテルはコンピュータの世界の主役がメインフレームと呼ぶ大型コンピュータから、個人が使えるパソコンに代わる過程で大きく成長した。消費電力量管理も、中央で管理するだけの形から、個人個人が積極的にかかわる形にできないかと考えて研究を進めているという。

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