発電所で作られた電力は、ネットワークを経由して全国の企業や家庭に届けられる。その仕組みは電話や郵便のネットワークに似ているが、大きく違うのは出し手の発電所の数が少なく、受け手の利用者の数が多いことだ。そのために電力特有の「送電」と「配電」の仕組みが作られている。
セミナー1日目:電力を表す基本単位「kW」と「kWh」
セミナー2日目:電力の世界を二分する「直流」と「交流」
セミナー3日目:電力の供給源になる「発電」と「蓄電」
日本の電力会社10社の発電所を合計すると1300以上もあって、意外に多いように思える(図1)。実はそのうちの9割は水力発電所で、1か所あたりの発電量は小さく、合計しても全体の電力供給量の2割にも満たない。主力の電力源は火力発電所で、全体の6割をカバーしている。その数は160しかない。
一方、電力を利用する企業や家庭は全国で8000万を超えている。各地の発電所で作られる電力を膨大な数の利用者に送り届けることが電力ネットワークの役割である。そのために緻密な構造の「送電」と「配電」の仕組みが日本全体に張り巡らされている。
電力は基本的に電線を通して送られるが、その間に少しずつ量が減ってしまう。電線によって電力の一部が消費されてしまうからだ。ただし電圧が高いほど(電流が少ないほど)、電線で消費する電力が少なくて済むという特性がある。このため、できるだけ高い電圧の状態で電力を送ることが望ましい。
発電所で作られる電力は莫大なエネルギーをもとに数十万ボルトの電圧で送り出される。それを段階的に低い電圧に下げていって、最終的に100ボルトの状態で家庭まで届けるのが日本の電力ネットワークである(図2)。
発電所から家庭までの間に、5段階にわたって電圧を下げながら、利用者が必要とする電力の大きさに変えて配分する仕組みになっている。ここで電圧を下げる役割を担うのが変電所で、全国に6000か所以上もある。変電所で電圧を変換しやすくするために、通常は発電所から交流の電力が送り出されて、最終的に企業や家庭のコンセントまで交流で届けられる。
このうち発電所から変電所までの基幹部分が送電ネットワークで、さらに変電所から企業や家庭などに電力を届ける部分が配電ネットワークである。日本では電力会社が発電・送電・配電をすべて担っている。そのために電力供給体制が硬直的になり、電気料金の上昇などにつながっているとの指摘がある。
政府によって電力会社の発電・送電・配電の事業を分離する検討も始まった。いわゆる「発送電分離」である。このところ太陽光発電に取り組む企業や家庭が急速に増えていることもあって、大小さまざまな発電施設が次々に誕生している。その点でも送電と配電のネットワークが電力会社から分離・開放されて、数多くの発電施設とつながりやすくなる意味は大きい。
かつて電電公社(現在のNTT)が独占していた国内の電話網が開放されたことで、日本の通信市場は一気に活性化して、料金が安くなり、サービスも充実した。同様のことが電力市場に起きることが期待できるわけで、さまざまな技術的な問題をクリアして早期に発送電分離を実現したいところである。
セミナー5日目:電力市場を変える「電気事業者」と「自由化」
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