電力市場を変える「電気事業者」と「自由化」サマーセミナー/電力の基礎知識(5)

電力は電力会社から買うもの、という常識が変わりつつある。電力会社のほかにも電力を供給する「電気事業者」が増えてきた。日本の電力市場は家庭向けを除いて販売が自由化されており、新たに参入した電気事業者が低価格のサービスを提供し始めている。

» 2012年08月17日 08時20分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

セミナー1日目:電力を表す基本単位「kW」と「kWh」

セミナー2日目:電力の世界を二分する「直流」と「交流」

セミナー3日目:電力の供給源になる「発電」と「蓄電」

セミナー4日目:電力ネットワークの役割は「送電」と「配電」

 実際には従来の電力会社も「電気事業者」に分類されていて、法律上では「一般電気事業者」と呼ばれている。日本には現在6種類の電気事業者が存在していて、それぞれで事業の内容に条件が設けられている(図1)。

図1 日本における電気事業者の分類と役割

 家庭を含めて自由に電力を販売できるのは一般電気事業者、つまり電力会社だけで、地域ごとに独占状態になっている。一方で企業向けの電力は少しずつ自由化が進められて、現在は商店などが利用する低圧(契約電力50kW未満)の場合を除けば、電力会社以外でも電力を販売することができる。

 特に最近注目を集めているのが「特定規模電気事業者」で、通称「新電力」と呼ばれている。新電力は自社の設備で発電したり他社が発電した電力を購入したりして、相当量の電力を確保し、それを企業や自治体に電力会社よりも安い価格で販売するのが特徴である。2012年8月6日時点で64社が新電力として登録されている。

 すでに新電力を利用している企業や自治体は相当数あると思われるが、公表されている例は少ない。自治体では横須賀市が今夏から学校で使う電力を新電力のエネットから購入することを明らかにしている。基本料金が東京電力と比べて約18%も安くなるため、年間で2400万円の電気料金を削減できる見通しだ。

 ちなみにエネットは1万以上の顧客に電力を供給していることを公表している。同社は新電力が販売する電力量全体のうち約5割のシェアをもつと言われている。単純に考えれば全国で2万くらいの企業や自治体が新電力を利用していると推定できる。

新電力のシェアは3%程度、さらなる自由化を

 それでも新電力が販売する電力量は電力会社と比べて3%程度に過ぎないのが現状だ。電力会社が契約している顧客数は自由化の対象範囲だけで約75万もあるため、新電力の顧客数が2万とすれば、3%程度にとどまるのも理屈が合う。現実には自由化とは言いがたい寡占状態にある(図2)。

図2 電力会社10社の事業規模。出典:電気事業連合会

 とはいえ今後さらに電力の自由化が進むことは確実で、その主な要因は3つ挙げられる。1つ目は再生可能エネルギーの固定価格買取制度が7月から始まったことによって、電力会社以外の企業や家庭からの発電量が増えることだ。これを新電力が購入すれば供給量を増やすことができる。ただし買取価格が割高に設定されている点が新電力にとっては悩ましいところである。

 2つ目は電気事業者の中で大きな発電能力をもつ「卸電気事業者」に対する規制の緩和である。現在のところ卸電気事業者は電力会社にしか電力を供給できないように法律で決められているが、この規制を撤廃して新電力にも供給できるようにすることが検討されている。

 卸電気事業者の中でも電源開発(J-POWER)の発電量が大きく、2011年度で640億kWhの電力を供給している。これは電力会社10社が販売した電力の合計9000億kWhの約7%に相当する多さである。

 そして3つ目には家庭や商店向けの自由化の動きがある。この市場が開放されると7000万以上の顧客が自由化の対象になる。すでに地域単位で電力供給サービスを提供している電気事業者もあり、企業に加えて家庭や商店にも販売できるようになれば事業拡大の機会は一気に増える。

 政府は時期を明確にしていないが、上記の自由化を含めて電力市場の開放を進めるための施策を積極的に打っていくことを宣言している。そう遠くない将来に、通信市場と同様の競争状態が電力市場でも形成されて、価格やサービスが多様化する期待は大きい。

[サマーセミナー終了]

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