日本の多くの地域では夏よりも冬のほうが電力を使う。九州や四国のような温暖な場所でも冬の電力使用量は大きい。ただし1日のうちの電力の使われ方は夏と違う。暖房に使うエアコンは設定温度のほかに、冬ならではのピーク抑制方法があり、年間を通した節電対策と組み合わせると効果的だ。
冬は朝と夕方に多くの電力が使われる一方で、温かい昼間は使用量が少なくなるのが特徴である(図1)。
特にオフィスビルの場合は、業務が始まる朝の9時台に一気にピークになって、そこから夕方の18時くらいまでほとんど変わらないレベルの電力が使われる。ピークを抑える対策は朝と夕方に実施するのが効果的だ。
エアコンは運転を開始した直後に多くの電力を消費するので注意したい。朝の対策としては、複数のエアコンの運転開始時刻を分散させてピークを平準化する方法が有効だ。
夕方にはエアコンを止める時刻を早めにして、その後はオフィスに残った熱を利用すると節電効果がある。冬の期間の設定温度は1日を通して19度が推奨されている。
ピーク対策に加えて、1日あたりの電力使用量を削減する対策もコスト(電気料金)を抑える上では重要になる。夏と違ってエアコンの消費電力が時間帯によって大きく変動することはなく、ほぼ一定の電力を使うからだ。
冬のオフィスビルでは照明と空調の2つで6割以上の電力を使う(図2)。
照明の節電対策では消費電力の小さいLED照明に切り替えることが最も効果的だが、それ以外にも照明の本数を間引く、点灯時間を減らす、など運用面の対策を加えると節電効果が大きくなる。エアコンも同様で、消費電力が大きい古い機種を最新機種に買い替える方法と、運用面の対策によって消費電力を少なくする方法の両方を検討すべきである。
運用面で最も手軽に効果を発揮できる対策としては、夏と同じようにサーキュレータを使って空気を循環させる方法がある。特に冬は暖かい空気が天井部分に滞留するため、夏以上に効果が大きい。
このほか意外に忘れがちなのがエアコンのクリーニングである。フィルターだけではなくて内部の熱交換器の汚れが消費電力に大きく影響する(図3)。内部のクリーニングは専門業者に依頼する必要があるが、大した金額にはならないので定期的に実施したい。
オフィスや店舗が賃貸の場合には直接実行できないこともあるが、オーナーに状況を確認して、対策が必要であれば依頼してみることが大切だ。
オフィスでも家庭でも、一度設置したエアコンは長期間にわたって使い続けるのが一般的である。冷暖房に支障がなければ買い替える必要はないように思えるが、消費電力の点では大きな違いがある。
業務用のエアコンで国内トップシェアのダイキン工業によると、15年前に設置したエアコンを使い続けると年間の消費電力量は購入時と比べて3割以上も増えてしまう(図4)。性能の劣化やフィルターの目詰まりが原因だ。
これを最新の機種に買い替えると、消費電力は8割も少なくなるという。逆に考えれば、買い替えない場合は5倍の電力を使ってしまうことになる。
どの電気機器でも同じ傾向にあって、新しい製品の消費電力は年々下がっている。まずは現在使用中のエアコンの消費電力を最新製品と比較してみることから始めたい。
エアコンの新製品がどのくらい消費電力を改善できるのか。それを測るうえで「COP」と「APF」という2つの指標がある(図5)。COPは電力1kWを使って、どのくらいの冷暖房能力を発揮するかを示したものだ。ただし年間を通じて一定の設定温度で運転した場合の数値であり、現実に合わない面がある。
そこで新しく考え出された指標がAPFである。冷房期間と暖房期間を実態に近い状態で設定して、年間を通じた冷暖房能力を評価する。より現実的な指標として、業務用のエアコンには2006年10月からAPFで電力消費の効率を表示するように義務付けられた。
COPやAPFの適正値については、資源エネルギー庁が「トップランナー基準」の中で設定している。この基準は“世界最高の省エネルギー機器”を日本から数多く生み出すことを目的に政府が定めたもので、電気機器や自動車などエネルギーを消費する主要な製品を対象に基準値を定めている。
業務用のエアコンに関しては、2007年度以降に達成する目標値と2015年度以降に達成する目標値がタイプ別に示されている(図6)。最新の製品は2015年度以降の目標値をクリアしなければならない。
現在使用しているエアコンのCOPまたはAPFを確認して、2015年度以降の目標値を満たしていない場合には、早期の買い替えを検討したほうがよい。古いエアコンを最新製品に取り換えるだけで、オフィスや工場の電力使用量を冬と夏それぞれで1〜2割くらい削減できる可能性がある。
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