温泉水を利用したバイナリー発電に注目が集まっているが、温泉水を使わずとも温泉発電はできる。静岡県熱海市は、温泉の湯気を利用して発電する装置を試験導入し、2012年度末まで一般公開する。
静岡県熱海市は、温泉の湯気を利用して発電する「低温度差発電装置」を市内の湯前神社に設置した(図1)。2013年3月29日まで一般公開する。
熱海市はこれまでも慶應義塾大学環境情報学部教授の武藤佳恭氏と、低温度差発電装置を開発するサイエンスパークの協力を得て、低温度差発電装置の実用化に向けて試験を続けていた。従来の取り組みでは熱源として温泉水の熱を利用していたが、今回は温泉が発する湯気を利用する。
低温度差発電装置では、温度差を電気に変換する熱電素子である「ゼーベック素子」を利用する。温泉の湯気の温度はおよそ100℃。これに対して温度が約20℃の水道水を用意して温度差を作り、ゼーベック素子で発電する(図2)。今回のデモではゼーベック素子を5枚用意し、15Wの電力を発電する。
発電した電力は湯前神社内に設置した4つの機器に供給する。1つ目の機器はスピーカー。これは武藤教授が開発した「横波スピーカー」と呼ぶもので、消費電力が従来のスピーカーの1/100で済むという特長がある。このスピーカーを通して発電の仕組みや湯前神社の歴史についてのアナウンスを流す。
2つ目の機器はLED照明。消費電力が3Wの照明を24時間点灯させる。3つ目の機器はスマートフォン向け充電器。4つ目の機器は無線LANルータ。湯前神社の境内で無料の無線LANサービスを提供する。
温泉の湯気を利用して、まとまった量の電力を発電できるようになれば、温泉水でタービンを回すバイナリー発電との併用で、熱利用効率の向上と発電量の増加が期待できる。本格的な地熱発電のように地中深くを掘って調査する必要もなく、温泉の源泉への悪影響もない。熱海市の今回の取り組みには期待したい。
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