業務用のビルでは消費電力のピークカットが「簡単」だ。設備を管理する専任の部門があり、コスト計算に基づいた行動が採りやすい。電力会社との協力も進んでいる。BEMSを入れて、節電アグリゲーターと契約すればよい。ビルに比べて一般家庭は難しい。現時点では需給ひっ迫時に素早く対応できない。このような状況を変える実証実験が横浜市で始まった。1900世帯を対象とする大規模な実験で、20%のピークカットを目指す。
日本で第二の巨大都市、横浜市(370万人)を舞台に、夏季のピーク消費電力を抑える実証実験が2013年7月から始まった。「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」の一環として、1900世帯が参加するデマンドレスポンス実証実験だ。国内のデマンドレスポンスの実証実験としては最大の規模になるという*1)。アクセンチュア、東京電力、東芝、パナソニック、三井不動産レジデンシャルが実証実験の進行側として参画する。
*1) YSCPでは横浜市全域から3つの異なる性格を帯びたエリアを対象地域として選び出している。2015年3月末時点の目標規模は、社会実証の対象世帯数が4000戸、技術実証用の対象が戸建て83戸などだ。この他、事業者も加わっており、業務ビル4棟、商業ビル2棟、大規模工場1棟の参加を予定している。2000台の電気自動車と合計出力27MWの太陽光発電システムなども加わる。
実証実験の目的意識はこうだ。夏季にはほぼ確実に電力需給がひっ迫するときがくる。ひっ迫が起きないよう、電力会社は翌日の気象予測などを基に、発電所の出力をあらかじめ決めている。ガスタービン発電のようにその場で負荷に応じて素早い起動が可能な発電方式ばかりではないからだ。しかし、予想を上回る猛暑や天候の急変、発電所での突発的な故障、電力会社同士の電力の融通ができない状況に陥ることなどにより、最大需要(ピーク需要)に追い付けない場合がある。
こうなると供給側では打つ手がなくなる。需要側を「操作」するしかない。可能性が大きいのが家庭部門だ。一般家庭に需給ひっ迫の情報を素早く伝える方法はいまだない。たとえ伝わったとしてもいつ消費電力を抑え(ピークカット)、家電を使う時間を変える(ピークシフト)のがよいのか分からない。逆に言えば、一般家庭には巨大な調整力が眠っている。夏季の一般家庭の消費電力の約5割は空調機(エアコン)による。空調機は停止したとしても冷気がある程度の時間は残る。つまり、いざというときに家庭の空調機を何らかの方法で操作できれば、需給ひっ迫を解決できる可能性が大きい。
電力会社側で直接家庭へ供給する電力を減らすことはできない。自主的な協力を得る必要がある。手法は大きく2つ。1つが消費電力の見える化、つまり家庭内のいつ、どこで、どのぐらいの電力が使われているかを表示することだ。無駄な電力消費は電気料金の支払い額に跳ね返るため、これだけでも効果はある。ピークカットというよりも消費電力のベースを減らす取り組みだ。
もう1つがデマンドレスポンスだ。需給のひっ迫情報を一般家庭に送り、協力を依頼することで直接ピークカット、ピークシフトに効く。横浜市の目標は見える化で10%の消費電力削減、デマンドレスポンスでさらに10%の削減、合計して20%を削減するというものだ(図1)。
デマンドレスポンスの効果を高める方法は2つある。1つがピークとなる時間帯の電気料金を仮想料金メニューに従って高めること、もう1つが、デマンドレスポンスに協力した際のインセンティブ(協力金)を保証することだ。20%削減に加えて、実証実験のもう1つの目的がここにある。電気料金やインセンティブの大小によってどの程度、消費者の行動が変わるかを見極める。電気料金に敏感に反応するのか、そうではないのか、影響を及ぼさない範囲があるのかどうかなどを調べる。ちょうど消耗品の価格の変化がどの程度需要に影響を及ぼすのかを調べるようなものだ。
省エネ行動実証実験のデータは、国の今後の電力政策にも役立つ。ピークカット効果や最適な価格設定が分かれば、デマンドレスポンスの普及に弾みが付くからだ。
実証実験のインセンティブの形はこうだ。まず協力金1万円を約束する。電気料金をX円削減できた場合、1万円+X円を支払う。逆に省エネせず、Y円出費が増えた場合は、1万円−Y円のみを支払う。分かりやすい考え方だ。電気料金の影響を調べるために1900世帯を大きく5つのグループに分け、(仮想の)電気料金体系を複数用意し、影響を見る(図2)。ピーク時間帯の料金を変えて効果を調べる。
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