なぜなぜ海洋温度差発電、なぜ静止した海水で発電できるのか発電の仕組み(5)(2/3 ページ)

» 2013年08月16日 19時30分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

現代の海洋温度差発電の工夫とは

 クロードの後、海洋温度差発電を引っ張っていったのは米国だ。アンダーソン(J. Hilbert Anderson)は作動媒体としてプロパンを採用したシステムを1965年に発明している。温水で液体プロパンを蒸発させてタービンを回し、気化したプロパンを冷水で液体に戻すというもので、現在の用語で表せば「バイナリー発電」の一種ということになる。

 クロードの装置は陸上に設置されていたが、アンダーソンは装置全体を海中に置くことを考えた。なぜだろうか。常圧でのプロパンの沸点は−42度であり、バイナリー発電に使えないが、適切に加圧すれば沸点が25度に上がるのだ。この温度は深海水と海水面の海水の中間の値になり、バイナリー発電にはちょうど良い。実は液化したプロパンガスは日常生活でなじみ深いものだ。「プロパンガスボンベ」(LPガスボンベ)である。プロパンガスボンベ中のプロパンは約8.5気圧以上で液体になっている。

 海洋温度差発電が復活の兆しを見せたのは、1973年に起きた第一次石油ショックだ。他の再生可能エネルギー同様、日本で海洋温度差発電の実証実験が始まったのも石油ショックがきっかけだ。佐賀大学では1973年に海洋温度差発電の研究を開始し、出力1Wから開始して、75kWまで高めている。特徴は同大の元教授、上原春男氏が考案した、純アンモニアに水を混合する「ウエハラサイクル」を採用したことだ。作動媒体に純アンモニアを用いたシステムと比較すると、ウエハラサイクルは50〜70%熱効率が上がり、その分だけ発電コストが下がる。海洋温度差発電推進機構によれば、ウエハラサイクルを採用し、出力規模を1万kW以上とすれば火力発電と同じ発電コストが実現できるという。

 さらに大規模な海洋温度差発電所に着手したのは米Lockheed Martin(ロッキードマーチン)だ。中国の不動産開発会社であるReignwood Groupと契約し、出力1万kWの試験プラントの建設を2014年に開始する(図2、関連記事)。

 両社は技術の詳細を公表していないが、作動媒体を用いたバイナリー発電であることは確かだ。なお、Lockheed Martinは1975年から作動媒体にアンモニアを用いた半潜水型の海洋温度差発電の研究を続けている。

図2 海洋温度差発電所の模型を囲む米国企業と中国企業の代表。中央の青いネクタイの人物は米国のケリー国務長官だ。出典:米Lockheed Martin

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