また米国で原子力発電所が閉鎖へ、天然ガスに対抗できず電力供給サービス

米国の大手電力会社で原子力発電を主力にするエンタジー(Entergy)が、東部のバーモント州で稼働中の原子力発電所1基の閉鎖を決定した。2032年まで運転可能な設備だったが、天然ガスによる電力価格の低下によって、今後は原子力発電にかかるコストが見合わなくなると判断した。

» 2013年08月30日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 閉鎖する「バーモントヤンキー(Vermont Yankee)原子力発電所」は1972年に運転を開始して、40年以上にわたって稼働を続けてきた(図1)。東京電力や東北電力の原子力発電所と同様の沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor=BWR)で、原子炉と発電機は米ゼネラルエレクトリック製である。1基で60万kWの発電能力があり、原子力発電設備では中規模に属する。

図1 バーモントヤンキー原子力発電所。出典:米Entergy

 運営会社のエンタジー(Entergy)は全米で合計1000万kW以上の原子力発電所を運転中の大手だが、経済性の悪化を理由に閉鎖を決めた。2014年の第4四半期に閉鎖して、その後に廃炉のプロセスを開始する。閉鎖のための減損処理と従業員のリストラ費用で2億ドル以上の追加コストが必要になる。それでも運転を継続した場合と比べて、2017年までに1億5000万〜2億ドル程度のキャッシュフローが増加する見込みだ。

 エンタジーは主に2つの経済的な理由を挙げている。第1にシェールガスの影響で天然ガスの価格が低下して電力市場の低価格化が進んだこと、第2に原子力発電所を運転するのに必要なコストが増大したことである。特に安全運転のための規制強化によって、規模の小さい原子力発電所のコスト構造が厳しくなっていることを指摘している。

 この2つの理由は日本の原子力発電所にもあてはまる。2017年には米国からシェールガスの輸入が始まる一方、国産の天然ガスとしてメタンハイドレートを2020年代に生産できる可能性が高まってきた。新たに発足した原子力規制委員会が「世界で最も厳しい」と誇る安全対策基準を打ち出したことで、電力会社のコスト負担は増大している。

 福島第一原子力発電所で汚染水漏れの問題が拡大している状況にあって、果たして日本でも原子力発電所の再稼働を進める必要性は本当にあるのか。政府には長期の展望に基づく適正な判断が強く求められる。

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