生活排水が自動車の燃料へ、細菌の作ったメタンから水素を抽出自然エネルギー(2/2 ページ)

» 2014年04月23日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
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どのような装置を使うのか

 3つの検証項目について、もう少し解説しよう。まずは第1の項目、品質だ。「製造する水素の純度として99.97%以上を目標としている」(三菱化工機)。バイオガスにはメタン以外の成分が含まれているため、まずはメタンを精製する技術が重要になる。「バイオガスに含まれる微量の高沸点炭化水素化合物を取り除く消化ガス前処理技術を使う。活性炭による吸着処理だ」(同社)。図3では高沸点炭化水素化合物としてケイ素(Si)を含む有機ポリシロキサン*3)を除去する装置が描かれている。

 図3の赤枠内では、ガス分離膜を使って、バイオガス中の二酸化炭素の大半を取り除き、メタン濃度を92%以上になるように精製する。「水素を効率よく、安定的に製造するために必要な処理である」(同社)。分離した二酸化炭素は液化して回収する。

*3) シロキサンはヒトの代謝で発生する化合物ではない。化粧品やシャンプーなどに保湿剤として含まれている添加物だ。人体や環境への有害性はほとんどないが、生活排水を利用した今回の設備では問題になる。シロキサンが分解すると石質の微粒子が水素製造装置内部に析出し、性能の低下を招くからだ。

図3 消化ガス前処理技術の処理フロー 出典:国土交通省

 次はメタンから水素を製造する技術だ。製造フローを図4に示す。左から来た原料(メタン)をまず余熱器で暖め、脱硫器で改質器の反応を妨害する硫黄化合物を取り除く。その後、左から来た純水を加えて加熱器で温度を高めたのち、中央にある円筒状の改質器で一酸化炭素(CO)と水素を得る。加熱に必要な燃料は原料のメタンなどから得るため、化石燃料は使わない。

 その後、図中央右の変成器で一酸化炭素と水を反応させて、二酸化炭素と水素を得る。最後に図右下のPSA(Pressure Swing Adsorption、圧力スイング吸着)装置で、反応せずに残ったメタンや、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素を全て取り除き、高純度の水素を得る。それぞれの反応自体は、家庭用の「エネファーム」などでも使われている一般的なものだが、不純物の多いバイオガスから大量に高純度の水素を得ることが技術的な課題となる。

図4 水素製造技術の処理フロー 出典:国土交通省

 先ほど2番目に挙げた検証項目の目標数量は高い。「水素製造量の目標値は、1日当たり3300Nm3程度」(三菱化工機)。これは1日当たり60台以上の燃料電池車を満タンにすることが可能な水素量である。

大規模な利用へと進む道は

 豊田通商によると、水素を量産できるだけのバイオガスを生み出している下水処理場は全国に約300カ所ある。従って、福岡市だけに適用可能な技術ではない。ガイドラインが公開されれば、プロジェクトの成果を他の地域でも利用できるだろう。

 「先ほどの3つの検証項目のうち、第3の項目(事業性)が重要だ。現在、海外から輸入している天然ガスを使うと品質のよい水素を製造できることが分かっている。バイオガスからも目標とする高純度の水素を製造できると考えているが、エネルギーはインフラそのものであり、バイオガスは国産のエネルギーだ。地産地消できるガスで輸入品を置き換えていくためには固定価格買取制度(FIT)のような公的な支援が必要だろう」(豊田通商)。事業規模が小さい初期時点ではコスト競争力が不足する可能性を指摘した形だ。公的支援制度によって規模を拡大し、輸入ガスに頼らない水素バリューチェーンを確立できないかという意見である。

 高島宗一郎福岡市長によれば、水素製造以外にも公的な支援策が必要だ。水素ステーションの設置場所には規制が多いため、規制緩和を検討しなければならないという。

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