弱い光に「強い」、二酸化炭素で作る太陽電池蓄電・発電機器(1/2 ページ)

リコーは2014年6月、「完全固体型色素増感太陽電池」を開発したと発表した。内部の液体部分を固体に変えることで、変換効率を2倍に高め、安全で、85度の高温下でも2000時間以上劣化しないという。2015年度以降にサンプル出荷を開始する予定だ。

» 2014年06月17日 11時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 リコーは2014年6月、室内の光で発電量が従来よりも2倍以上多くなる太陽電池を開発したと発表した。「色素増感太陽電池」と呼ばれる太陽電池の一種*1)。「現在他社が開発中の色素増感太陽電池よりも安価に生産できる見込みがあり、2015年度以降にサンプル出荷を予定している」(リコー)。

 屋根の上に敷く、メガソーラーに使うというよりも、室内空間で電源コードや蓄電池を使わずにモノのインターネット(IoT:Internet for Things)を実現する用途に向いている太陽電池なのだという。例えば、室内環境のセンサーや健康状態をモニターする場合などに自立用電源として利用できる。電力を「無線」(光)で伝送するワイヤレス充電と似た技術だと捉えることもできる。

*1) 色素増感太陽電池は色素によって光を捉えるため、光の性質に応じた色素を採用することでさまざまな環境に対応しやすい。色味を変更しやすいためデザイン性にも優れる。製造時に必要なエネルギーはシリコン太陽電池よりも一般に小さい。

シリコン太陽電池よりも高効率

 リコーが開発した色素増感太陽電池には、特徴が3つある。発電効率と安全性、耐久性だ。

 太陽電池には使用環境に応じて異なる技術、材料が使われている。宇宙(人工衛星)用途では高価だが高効率なGaAs(ガリウムヒ素)や放射線に強いInP(インジウムリン)が適する。地上でも高温にさらされる場所ではCdTe(カドミウムテルル)やCIS(銅インジウムセレン)が向く。温暖でいくぶん冷涼な地域ではSi(シリコン)が適している。設置量ではシリコン太陽電池が最も多い。

 同様に、室内空間や太陽光が斜めに入射するような場所には、色素増感太陽電池が適している。色素増感太陽電池が開発される以前には、アモルファスシリコン太陽電池*2)がこのような用途に最も適していた。

*2) シリコン原子が結晶を作らず、乱雑に結合した状態(アモルファス)に保った太陽電池。室内では「ソーラー電卓」によく使われている。

 リコーによれば、照度が200lx(ルクス)となる白色LEDの光を当てた場合、これまで知られている最も高性能なアモルファスシリコン太陽電池は1cm2当たり、6.5μWの電力を生み出すことができた。従来型の色素増感太陽電池は8.4μWであり、アモルファスシリコンよりも30%程度性能が高い。リコーが発表した色素増感太陽電池は、13.6μWであり、アモルファスシリコンと比較して2倍以上、従来品と比較しても60%以上高性能だ。

 図1に示したのは新開発の太陽電池(RICOH-DSSC)の性能をアモルファスシリコン太陽電池(a-Si)と比較したグラフだ。横軸の電圧、縦軸の電流とも、新開発品が上回っていることが分かる。つまり出力が大きい。図2には最大電圧(開放電圧:Voc)と最大電流(短絡電流密度:Jsc)の測定値を示した。

図1 白色LED(200lx)下の太陽電池の発電特性 出典:リコー
図2 発電特性の測定値 出典:リコー

液体を固体に置き換えて性能向上

 発電効率をこのように改善でき、安全性と耐久性を高めることができた理由はこうだ(注3も参照)。色素増感太陽電池は、他の方式の太陽電池とは異なり、2枚の電極の間に液体を保持している。電解液だ。電解液には腐食性のあるヨウ化物イオンも含まれている。

 リコーはこの電解液部分を固体に変えた。「完全固体型色素増感太陽電池」と呼ぶ。これにより、電解液の液漏れやヨウ素による腐食などのリスクがなくなり、安全性を確保できた。

 同時に耐久性も高くなり、85度という条件に2000時間置いても、最大出力値の低下がなかった。リコーによれば従来構造のまま85度の条件下に置くと、太陽電池セル中にある色素がやはり内部にある酸化チタンから脱着する「有機色素剥がれ」という現象が起きるのだという。これが起こると出力が大幅に低下してしまう。

 図3では横軸に時間(h)、縦軸に社内基準値に対する任意単位を示した。暗所に置いた場合と、85度で性能に違いが少ない。つまり、太陽電池の材料や構造に劣化がなかったということだ。

図3 開発した太陽電池の耐久性 出典:リコー
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