エネルギー不要の技術あり、環境から少しずつ回収して使う和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(2)(2/4 ページ)

» 2014年06月27日 09時00分 公開

自己発電スイッチが実現

 次に、村田製作所の技術・事業開発本部デバイス開発センター担当課長である西川博氏に聞いた(図3)。

和田氏 なぜ村田製作所はエネルギー・ハーベスティングに力を入れているのか、背景や現状について聞きたい。

西川氏 当社は圧電デバイスなどいろいろなものを開発している。エネルギー・ハーベスティング技術を使い、人が「押す」といったアクションを電気エネルギーに変換できないかと考えた。自己発電スイッチは欧州で注目されている。欧州では古い石造りの建築が多く、配線し直すことが極めて難しい。配線を表に出すことには外観上の影響もある。エネルギー・ハーベスティングによって無線化できれば配線がなくても取り付け可能だ。

図3 村田製作所の西川博氏

和田氏 自己発電スイッチについて、もう少し詳しく教えて欲しい。既に量産段階なのか。

西川氏 当社は開発段階を4段階に分類している。調査・研究、開発、実用化、工業化の4段階である。自己発電に関しては、現在、開発段階にあると位置付けている。

和田氏 では次のステップである実用化、そして量産に向けてどのような課題があるか。

西川氏 2つの面で課題があると考えている。1つは技術面。スイッチの保証耐久回数は、一般に10万回だ。弊社の試作品でも10万回を超えているものの、スイッチはさまざまな場所に設置されるので、温湿度など各種の環境試験を確認していく必要がある。

 もう1つは市場の面である。当社のスイッチを設置するには、スイッチ単体のみならず、スイッチを収め壁に設置するスイッチプレートや、スイッチと連動した照明器具が必要になる(図4)。つまり、照明器具を作るメーカー、さらにはこの照明器具を選択する電気工事店などの理解と支援が必要となる。現在、これらユーザーに近い方々と接触を行っている段階だ。

図4 村田製作所の自己発電スイッチ

和田氏 自己発電スイッチの活用方法は、通常の照明用スイッチ以外にあるのか。

西川氏 検討中の用途がある。ドアノブを回すと電気が発生して、他のところにいる人に知らせるといったアイデアがある。これは、電気ポットの見守り*1)を応用したものだ。(監視)カメラだと嫌がられるが、ドアノブを回すだけで生活していることが分かる。例えば単身生活する高齢者の見守りなどのお役にたてるのではと考えている。

*1) 電気ポットに無線信号を発生する機器を組み込み、ポットを使った(動かした)かどうかという情報を見守りサービスに利用する。

和田氏 温湿度センサーノードや人感センサーノードを開発していると聞いたが。

西川氏 温湿度センサーノードは一般に部屋の壁面に取り付けて使う(図5)。しかし壁面では必ずしも室内を代表する測定値を得ることができない。このため机の上など、人の作業に近いところで温湿度を測ることができないか検討している。

 人感センサーは人の熱源を検知する。しかし、熱源が動いていないと検知できない。例えばPCを操作しているときだ。このような状態でもきちんと検知できるセンサーがあればと考えている*2)。開発段階の装置を横浜市にあるスマートハウス「スマートセル」で展示している(関連記事)。

*2) 村田製作所は温湿度センサー製品を製造していないため、社外から部品を調達し、センサーノードを開発している。

図5 温湿度センサーノード 出典:村田製作所

和田氏 村田製作所が進めているワイヤレスセンサーネットワークの展望は?

西川氏 ワイヤレスとは、建物を傷つけることがないこと。賃貸オフィスや住居、後付の配線を避けたい美術館などに最適である(図6)。室内では50m以上、室外では約500m、信号を飛ばすことができる。実際の用途に問題はない。信号にはID情報が付加されているので、照明を制御する場合でも、隣の照明が付いてしまうことはない。ただし、鉄の扉などがある室内では条件によって信号が届きにくい。ただし、当社だけではネットワークを構築できないので、ワイヤレスセンサーを活用して商品として広げていただけるパートナーが今後どうしても必要だと考えている。

図6 ワイヤレスセンサーネットワークデバイス 出典:村田製作所

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