燃料電池車、勝利の方程式は解けるのか電気自動車(1/3 ページ)

トヨタ自動車は2014年度中に燃料電池車を発売する。価格は700万円程度。電気自動車が既に実用化されているなか、なぜ燃料電池車なのか。燃料電池車が普及するカギは何なのか。水素社会は果たして訪れるのか。

» 2014年06月27日 23時40分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 タンクに蓄えた水素ガスを、空気中から取り込んだ酸素と静かに反応させて発電し、モーターで走行する。排気ガスは水蒸気だけ。燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)は、走行時のゼロエミッション(二酸化炭素の排出量ゼロ)を実現する「未来」の車だ。

 トヨタ自動車は2014年6月25日に記者会見を開催。セダンタイプの燃料電池車を2014年度中(2015年3月まで)に10の都県を中心に発売することを発表した(図1、図2)。価格は700万円(税別)程度*1)。「当社の車種でいうとクラウンやSAIのようなサイズの車になる」(トヨタ自動車)。同じく燃料電池車の一般販売を計画するホンダや日産自動車に先がけた形だ。

*1) 電気自動車に適用されている補助金やエコカー減税などの政策優遇策が燃料電池車にどの程度適用されるのかは未定である。日産自動車の「リーフ」の場合、クリーンエネルギー自動車等導入対策費補助金(CEV補助金)の額は最大53万円である。ただし、燃料電池車のような新技術に対しては、当初の補助金の金額(上限100万円)などが適用される可能性もある。

図1 トヨタの新型燃料電池車 出典:トヨタ自動車
図2 燃料電池車の側面デザイン 出典:トヨタ自動車

複数の選択肢があるゼロエミッション

 同社が燃料電池車を販売するに至った理由は3つある。省エネルギー(燃費、エミッション低減)と燃料多様化への対応に加えて、「エコカーは、普及してこそ環境への貢献」と考えているためだ。

 同社は燃料電池車を一足飛びに実現しようとはしなかった。20年以上の研究を重ねると同時に、実用化ではハイブリッド技術を利用した車を先行させている。

 ハイブリッド車(HV、HEV)はガソリン車が搭載する鉛バッテリーに加えて、走行を補助するバッテリーとモーターを利用する。このバッテリーは、エンジンの性能が十分に引き出しにくい起動時に動力源となる他、ブレーキ操作の際に失われる運動エネルギーを電力として回収(回生)することによって、燃費を高めている。ある距離を走るために必要な燃料が減る。ローエミッションだ。同社はハイブリッド技術を実に多様な車に展開している(図3)。

図3 ハイブリッド技術を適用した車 出典:トヨタ自動車

 これをさらに進めたのがプラグインハイブリッド車(PHV、PHEV)。搭載するバッテリーの容量を増し、充電が可能なハイブリッド車だ(図4)。「プリウスPHV」の場合、電気自動車として走行できる距離が、「プリウス」の約2kmから最長26.4km(JC08モード)に伸びた。毎日の買い物程度の距離であればバッテリーのみで走行でき、ゼロエミッションになる。遠距離では高性能なハイブリッド車として動く。

図4 ハイブリッド技術の展開が次世代車へ 出典:トヨタ自動車

 同社が2008年にSUVタイプの燃料電池車「トヨタFCHV-adv」のリース販売を開始した際、リースの月額は84万円だった(30カ月契約)。年間では1000万円を超える。今回、燃料電池車の価格を700万円程度(同社によればシステムコストは2008年比で20分の1以下)にまで低減できた理由の1つとして、同社はハイブリッド技術(部品)を適用できたことを挙げている。

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