エネルギー問題のカギは「熱」、トヨタが4社と排熱利用に取り組むエネルギー管理(1/2 ページ)

トヨタ自動車は愛知県豊田市に立地する元町工場と、他社の4工場を使った実証事業を開始する。目的は排熱の有効利用だ。排熱を回収し、物質に変えて蓄熱し、輸送する。全世界の工場に広がっていく可能性のある技術だ。

» 2014年07月03日 07時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 エネルギー問題を解決するためには、多数の技術を組み合わせる必要がある。これだけで解決できるという「銀の弾丸」はない。それでも優先度はある。省エネルギー(省エネ)と再生可能エネルギーの導入、熱の効率的な利用が重要だ。

欲しい「熱」を捨てている

 他の2つと比べて、熱の重要性は多少分かりにくい。しかし、重要性を裏付けるデータはある。例えば、国内で消費される電力のうち、9割が化石燃料に依存している。火力発電では投入したエネルギーのうち、3割は電力にならず、排熱として捨てられてしまう。

 熱が役に立たないということではない。国内の全エネルギー利用のうち、約半分は熱の形で使っているからだ。電力として使われる利用量の約2倍に相当し、電力利用と輸送用燃料利用を合計した量とほぼ等しい。熱はこれほど重要だ。捨てられている排熱を幾分なりとも回収できれば、発電所を新設したことと同じことになる。

 発電所以外の排熱にも課題がある。熱を直接利用する側の状況も良くない。例えば工場などで発生する熱のうち、100〜500度の低温排熱、特に300度未満の低温排熱の利用率は非常に低く、2000年度時点では年間20万Tカロリーの熱が大気中に放出されている。経済産業省によれば、発電所や工場など国内全ての排熱(未利用熱エネルギー)の合計は、年間1兆kWhにも及ぶ*1)。これは日本の年間総発電量とほぼ同じだ。

 排熱の利用が進まない理由は幾つかある。工場を例に挙げれば1工場内で生じる排熱の量と、欲しい熱の量が異なること。それぞれの温度に違いがあること。排熱が生じるタイミングと必要なタイミングが異なること……。

 このような問題にも解決策はある。複数の工場、さらには工業団地全体で熱を「融通」できればよい。分量や温度、タイミングのずれは参加する工場が多いほど解消しやすくなるからだ。

*1) 未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発(2012年6月、PDF

排熱の50%を利用可能

 トヨタ自動車は排熱を有効利用するための実証事業を2014年に開始する*2)。実証事業「工場排熱や発電電力を工業団地や地域で共有・有効利用するエネルギーシステム構築」では、排熱回収や蓄熱、熱輸送を用いた工業団地内でのエネルギー共有化と需給の最適化を目指す。システム技術を確立し、蓄熱物流の経済性を検証する。

*2) 新エネルギー導入促進協議会(NEPC)が「次世代エネルギー技術実証事業」の補助対象としてトヨタと中部電力、東邦ガスが共同で応募していた同実証事業を補助対象として選定した。補助金の額は非公開。中部電力と東邦ガスはそれぞれ電力と熱利用に関するノウハウをトヨタ自動車と共有する。

 エネルギー関連に関するトヨタ自動車の取り組みは息が長い。経済産業省が2010年4月から進めている「豊田市低炭素社会システム実証プロジェクト」では実証住宅でHEMSやプラグインハイブリッド車を利用した家庭・地域のエネルギーマネジメント分野を実証している。「これまではいわば家庭からの『足』のエネルギーを最適化していた。今後は産業部門を加えていく」(トヨタ自動車)。

 2013年度には今回の「工業団地における地域熱・電力共有システム構築」の取り組みを開始。今回試みるような実証事業に入る前に、マスタープランを策定し、経済性と環境性について事業の実現可能性を探っている(関連記事)。

 「2013年度のマスタープラン策定の結果、3つの数値が得られた。まず、排熱のおよそ50%は有効利用が可能だということ。次に約12%の省エネ効果が得られること。最後に年間費用にして約10%のエネルギー削減効果があることだ」(トヨタ自動車)。大量の工場排熱が利用可能であり、それによって、省エネはもちろん、エネルギーコスト削減にもつながるという分析結果だ。

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