太陽光を改善する「21の方法」、長寿命化や熱利用自然エネルギー(1/3 ページ)

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2014年7月、太陽光発電システムの改善に役立つ21のプロジェクトを開始すると発表した。システムの寿命を延ばす、太陽熱を電力と併せて利用する、リサイクルを効率化するなどの取り組みだ。太陽電池の変換効率向上や製造コスト低減ではなく、システム全体の効率、コストに着眼した。

» 2014年07月18日 13時30分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2014年7月、太陽光発電システムの改善に役立つ21のプロジェクトを開始すると発表した。固定価格買取制度(FIT)の導入や世界的な部材コスト低減の流れを受けて、「太陽光発電の大量導入社会を支える」必要が次第に高まってきたことに対する取り組みだ。太陽光発電システムのうち、寿命が最も短いパワーコンディショナーの改善や太陽熱の同時利用の他、システムを廃棄せず、リサイクルするための技術開発などを進める。

 21のプロジェクトは大きく3つに分かれている。先ほど挙げた3つの例、「寿命」「熱」「リサイクル」はそれぞれ、「太陽光発電システム効率向上・維持管理技術開発プロジェクト」「太陽光発電多用途化実証プロジェクト」「太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト」に対応している*1)。以下では21のプロジェクトの内容を紹介する。

*1) NEDOが進めるプロジェクトは大きく共同研究と委託事業に分かれる。共同研究では費用の3分の2をNEDOが負担し、企業負担分は3分の1だ。委託事業ではNEDOが100%を補助する。今回は太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクトに含まれる8つが委託事業、それ以外の13が共同研究だ。「助成金の金額は各企業との契約後に確定する」(NEDO)。

寿命を延ばし、システムの効率を高めたい

 「太陽光発電システム効率向上・維持管理技術開発プロジェクト」の総合的な目標は、主に太陽電池以外の周辺機器(BOS:Balance Of System)の性能を高めることだ。

 2018年度末までにシステム効率を従来方式と比べて10%以上高め、BOSコスト全体を10%以上低減可能な技術を開発する。両方を組み合わせ、発電コストに換算して2円/kWh以上の削減効果を求めたプロジェクトだ。もう1つの目標はシステムの診断技術に関するもの。設備の自動診断技術を利用して、やはり2018年度末までに維持管理費を30%削減できるようにする。発電コストに換算して1円/kWh以上の削減効果を求めている。

 プロジェクトには5つの団体、企業が参加し、合計6つの技術開発を進める。太陽光発電技術研究組合は2つのプロジェクトに取り組む。まずは「次世代長寿命・高効率パワーコンディショナの開発」だ。太陽光発電システムは寿命が異なる複数の部材の組み合わせだ。住宅用の太陽電池モジュールは20年〜25年、あるいはそれ以上の設計寿命がほぼ実現できている。しかし、交流電流を取り出すために必要なパワーコンディショナー(PCS)の寿命はもっと短い。住宅用では15年程度のものが多く、システムが動いているうちにPSCの交換が必要になる場合がある。そこで、一気に30年の設計寿命を実現する。

 PCSの内部にある劣化が進みやすい部品「電解コンデンサー」「パワーリレー」「リアクトル」を長寿命化し、性能を高める(図1)。

図1 住宅用パワーコンディショナーの回路と長寿命化を狙う部品(クリックで拡大) 出典:NEDO

 もう1つのプロジェクトは「次世代長寿命・高効率ACモジュールの開発」。多数の太陽電池モジュールを1台のPCSに接続するのではなく、1枚1枚の太陽電池モジュール自体にPCSの機能(マイクロインバーター)を内蔵させる試みだ。「太陽電池モジュール1枚ごとに制御が可能となるので、通常のストリング式のPCSに比べ、影が掛かる場合でも効率よく出力することができ、後からでもモジュール1枚単位で増設が可能となるメリットがある」(NEDO)。

 ケミトックスは「低価格角度可変式架台の開発による積雪時の発電効率向上」を狙う。「積雪地域において冬季は太陽電池モジュールの傾斜角を垂直に、それ以外の期間は30度などに変えることのできる低価格な架台を開発する。これにより、太陽電池モジュールへの積雪を防ぎ、年間を通して発電量を確保する」(NEDO)。北海道や日本海側の地域に設置した太陽光発電システムには角度を工夫したものが多い(関連記事)。しかし、角度を変えることができる低価格な架台は、いまだ研究開発の余地が大きい。

 フォーハーフのプロジェクトは「太陽光反射布を用いたソーラーシェアリング発電所システム効率向上の研究開発」。農業と太陽光発電システムを組み合わせるソーラーシェアリングに役立つ技術だ。冬季など休耕期間には作物への日当たりを気にせず太陽光発電が可能だ。伸縮性のある着脱可能な「反射布」を開発して、より多くの光を太陽電池モジュールに集める。冬季に反射布を設置するための架台も作り上げる。

不具合を発見したい

 続く2つのプロジェクトはシステムの診断技術に関係する。

 「新規不具合検出機能を備えた発電量/設備健全性モニタリングシステムの開発」を進めるのはネクストエナジー・アンド・リソースだ。大規模な太陽光発電所では、どうしても長年月の間、一部の太陽電池モジュールに不具合が発生する。これを高精度で検出するモニタリングシステムを開発する。現場で1枚1枚モジュールを点検する必要がなくなり、メンテナンスコスト、ひいては発電コストが下がる。「一般的なストリング式のモニタリングシステムに比べ、配線が大幅に削減できることや後付けも簡単にできることで、設置コストも抑えられる」(NEDO)。

 京セラコーポレーションのプロジェクト「HEMSを用いたPV発電電力量の遠隔自動診断と故障部位把握方法の開発」はデータ処理が肝になる。先ほどの診断技術はメガソーラー用だが、このプロジェクトでは住宅用を開発する。ある地域の多数の発電データを集めることができれば、その地域で発電量が少ない住宅を見つけ出すことができるというアイデアだ。まず、HEMS(家庭用エネルギーマネジメントシステム)を使って発電データを集める。次に気象データなどを組み合わせて本来の発電量を推定する。すると、発電量低下はもちろん、劣化モジュールの特定も可能になるという。遠隔地から診断できるため、メンテナンスコストの削減に役立つ。

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