日本初の下水熱利用、さらに性能高める東京自然エネルギー(1/2 ページ)

1994年に運用が始まった東京下水道エネルギーの地域冷暖房システムは設備が劣化してきている。そこで2013年から2017年までの4年間、新システムを開発、導入して省エネルギー性能を高める。2013年度の成果を紹介する。

» 2014年08月19日 17時45分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 JR東日本の水道橋駅西改札口から北に向かう。神田川と外堀通りをまたぐ陸橋を渡ると、「黄色いビル」が見えてくる。さらに進むと「東京ドーム」の正面入り口に至る。周囲には東京ドームホテルや遊園地(東京ドームシティアトラクションズ)があり、常に人通りが絶えない。

 東京ドーム周辺と、ドームの西側に広がる公園(都立小石川後楽園)は、余暇を過ごすのに適しているものの、それだけではない。この辺り一帯(文京区後楽1丁目)は、日本初の事業の対象地でもある。下水の温度差エネルギーを利用した熱供給事業(地域冷暖房)だ。対象地域は、東京ドーム本体と一部商業施設(ラクーア)を除く、21万6000m2の区域にあるビル(延床面積24万2000m2)。一角にある東京都下水道局行楽ポンプ場から、隣接するビルなどに熱を送っている。2011年度(2011年4月〜2012年3月)の実績は8万700GJ(ギガジュール)。

どのような設備なのか

 ここで利用しているのは、熱源水や冷却水として未処理下水を利用し、蓄熱槽と電動ヒートポンプを用いて、周囲のビルに冷水や温水を送る設備だ。施設の規模はかなりのもの。ヒートポンプが4台(合計冷凍能力8650USRT*1)、合計暖房能力12万8547MJ/時)、蓄熱槽が3つ(合計容量1520m2)、地域導管が2本(冷水管797m、温水間796m)である。

*1) USRT(アメリカ冷凍トン)は、0度の水2000ポンド(906kg)を24時間で0度の氷にするために必要な熱量。1USRT=3.497kW

 システム全体は「下水−熱交換器−ヒートポンプ−蓄熱槽−サービス対象のビル群」というように設備が直列に並んでいる。

 設備の動作は季節によって異なる。冬季の動作はこうだ。まず自然の状態にある16度の下水を外部から受け取る。これを熱交換器に通じ、11度に温度が下がった下水を水再生センターに送る。直接下水が関係するのはここまでだ。熱交換器はヒートポンプから10度の水を受け取って下水の熱を受け渡し、15度にして戻す。ヒートポンプはサービス対象となるビルから37度の水を受け取り、47度の温水にして蓄熱槽に貯め、順次、ビルに送り返す。ビル側では空調機から温風が吹き出す*2)。ヒートポンプ部分はエアコンの暖房と同じ動作であり、電力を使う。ただし、直接冷水から温水を作り出すよりも少ない電力で済む。下水から熱エネルギーをくみ出しているからだ。

*2) 夏季は26度の下水を熱交換器に通じ、31度にする。熱交換器はヒートポンプから34度の水を受け取って、27度の水を返す。ヒートポンプは周囲のビルから送られてくる15度の水から7度の冷水を作り出し、蓄熱槽に蓄えつつ、周囲のビルに送る。

4つの実証項目を打ち出す

 同設備はもう20年も動き続けている。1994年に運用が始まってからシステムがいくぶん老朽化してしまった。環境確保条例も変わった。東日本大震災を受けて、より一層の省エネが必要になった。このような理由から、2012年度に熱供給施設のリニューアル計画が立案、設計が始まった。

 設備を維持管理する東京下水道エネルギーは、新エネルギー導入促進協議会(NEPC)の実証事業費補助金に公募し、2013年10月から2020年9月まで下水熱利用地域冷暖房施設再構築事業に取り組む(NEPCの補助金の対象となる実証事業工事期間は2017年1月末まで)。

 再構築事業の目的は、設備を更新する際に省エネルギー効率をより一層高めること。再構築事業が目指す数値目標を成績係数(COP:Coefficient Of Performance)で表したのが図1だ。COPは消費電力1kW当たりの冷暖房能力(kW)を表しており、数字が大きいほど性能が高い。

 実現手法は大きく2つある。まず、省エネルギーに役立つ最新の設備・部材を導入する。次に制御システムを新たに構築する。黄色で示した1.19という数字は最新の設備・部材で実現し、赤で示した1.27〜1.30という数字は制御システムで実現する形だ。

図1 再構築事業が目指すシステム性能 出典:NEPC
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