未来がある「水素」、課題も多い和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(4)(2/4 ページ)

» 2014年10月06日 09時00分 公開

水素の輸送は難しいのか

和田氏 水素の輸送方法としてどのような方法を用いるのか。圧縮水素や液化水素、有機ケミカルハイドライドなどいろいろな方式が話題となっている。

上田氏 計画中の20カ所については、大半の輸送を液化水素で考えている。一部の小規模な水素ステーションでは、「カードル」(curdle)と呼ぶ圧縮水素が入ったシリンダーの集合体をトラックで運ぶこともある。それ以外は将来も含めて液化水素で運ぶことを考えている。

 圧縮水素と液化水素を比較するとこうなる。液化水素の場合、液化(冷却)のためにエネルギーが必要となる。利点は圧縮水素と比べて容積当たり10倍以上運ぶことができることだ。当社の計算では、費用対効果の面で液化水素が有利と考えている。輸送手段の主力は液化水素ローリー(容量:約2万3000L)だ(図3)。

 海外から日本に輸入する場合も、液化水素が有利ではなかろうか。例えば米国西海岸から日本に輸入することを考えると、最近では船でも10日強程度で到着し、それほどかからない。つまり液化水素の減少量(蒸発量)が少ない。有機ケミカルハイドライドなど、他の方法に比べ後の処理*2)を必要としないことも有利な点だ。

*2) 有機ケミカルハイドライド法では水素をトルエンなどの有機物と反応させて液体に変える。液体のまま貯蔵、輸送し、必要に応じて、水素を取り出す。水素を取り出す反応の高速化がカギだという(関連記事)。

図3 液化水素ローリーの外観 出典:岩谷産業

建設コスト半減の秘策とは

和田氏 水素ステーションの課題をどう考えているのか。先ほど話題に上がった法律の整備の見通しは。

上田氏 一番の課題は、水素ステーションの建設コストが高いことである。オフサイト方式はもちろん、水素製造装置が必要となるオンサイト方式ではなおさらだ。当社の目標として、オフサイト方式の建設コストを現在の半分に引き下げることを狙っている。そのために、設備機器のスケールメリット(標準化)を目指す。

 法整備の問題はさまざまな規制の緩和だ。現在、団体として規制緩和を政府にお願いしている段階だ。これは建設コストにも直結する。先ほど半分と言ったことには理由がある。当社の調査では、海外の建設コストは日本の約半分だ。規制緩和によって、海外と同等となることを目指したい。

 もう1つの課題は水素の販売価格だ。現時点ではっきりとは言えないものの、ガソリン走行時と同じ距離をFCVが走ることを考えて、水素の価格が設定されるのではないか。(試算の結果)そのような価格では採算を取ることは難しい。それでも、最初の段階ではFCVを広めるための責任分担と考えている。

 水素ステーションが単独の事業として成立するのは、恐らく2020年以降であり、それまで我慢しながら続けていきたい。

和田氏 水素ステーションへの理解と普及を進める方法は。

上田氏 2014年8月、東京タワー直下に水素ステーションを建設すると発表した(図4、関連記事)。完成は2015年3月である。オフサイト方式であり、充填圧力は70MPa。この設備は単なる水素ステーションにとどまらず、最新のFCVや水素関連技術も展示するショールーム機能を有しており、水素エネルギーインフラ整備の拠点としたい。

 このように、水素時代はこれからであり、安全性・信頼性などを地道に高めていくしかない。まさに生みの苦しみであろう。また地域の方々にも水素に関する理解を深めていただくことができればと思っている。

図4 東京タワー直下の水素ステーション 出典:岩谷産業

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