未来がある「水素」、課題も多い和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(4)(4/4 ページ)

» 2014年10月06日 09時00分 公開
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水素の作りすぎは困る

和田氏 水素ステーションはオフサイト方式とオンサイト方式に分かれる。充填圧力も35MPaと70MPaがある。どの組み合わせが普及するのか。

今村氏 オフサイト方式とオンサイト方式を比べると、ステーションなどの敷地内で水素を製造するオンサイト方式は、費用の面で厳しいように思える。加えて、初期の段階ではそれほどFCVが普及していない。常時水素を製造しても供給する用途がない。2013年から2014年にかけて幾つかの水素ステーション建設計画が発表されており、多くはオフサイト方式だ。

 充填圧力は70PMaが有利だ。1回の充填で長距離を走れることから、70MPaに統一されていく方向だ。現在走行しているFCVは35MPa仕様と70MPa仕様があるものの、自動車メーカーが70MPa仕様に統一していくのではないだろうか。ただし、70MPaの方が圧縮機などの機器の費用は高くなる。自動車メーカーの方向性を見ながら、協力して考えていく。

輸送や法規制をどう考える

和田氏 水素の輸送方法をどのように見ているのか。圧縮水素や液化水素、有機ケミカルハイドライドなどがある。

今村氏 初期段階ではFCVの台数もそれほど多くない。2〜3年は現在と同じように水素を高圧圧縮して輸送する方法が取られるのではないだろうか。液化水素は大量輸送時代になったときに普及するものと考えている。

和田氏 水素ステーションには、他にどのような課題があるのだろうか。

今村氏 水素ステーションのイニシャルコストが最大の課題となるものの、設置場所の確保だ。設置できる地域の規制や公道との距離はもちろん、地域住民の理解が必要となる。水素のコストについてはまだ確定していない。いくらくらいに設定されるか、関心を持っている。水素を顧客に提供する水素ステーションの事業採算性も課題であろう。

和田氏 規制と法整備の現状についてどのように考えているのか。

今村氏 数多くの法規制があり、これまで30項目ほどの見直しを業界から政府にお願いしてきた。ガソリンスタンドとの併設が可能になるなど、かなりの規制緩和があったものの、まだまだ規制が多い。特に、ディスペンサーと公道との距離を大きくとらなければならないこと、70MPa充填の場合、市街地への設置基準が厳しいこと、ガソリンでは可能なセルフスタンドが水素では認められないことなど、課題は多い。

和田氏 水素ステーションへの理解を進め、普及を広げる方法は。

今村氏 こればかりは地道に水素エネルギーの利便性や将来性を、各種イベントなどを通して啓発していくしかない。これからFCVの市販車も登場するので、色々なところで目に触れる機会が増える。理解が深まることを期待している。

水素ステーションの充実はこれからだ

 水素ステーションに関する記事は、新聞・雑誌など、かなり増えてきた。しかし、どちらかといえば情報の羅列が多く、水素ステーションを担う企業がどのように将来像を考え、どのように設置しており、どのように課題を解決していこうとしているのか。このような点が分かりにくかった。今回、有力2社にインタビューした結果、以下のような印象をもった。大きく3つある。

 第1に水素ステーション設置についてだ。

  • 設置コストが高額

 必要な機器が少ないオフサイト方式でも4〜5億円、オンサイト方式となると6億円前後といわれている。2社のコメントからは、オフサイト方式が主流となるようであり、当面はオフサイト方式のコスト半減を目指しているようだ。しかし、最終的にはガソリンスタンドと同等(1億円程度)にならないと本格普及には厳しいと感じた。ロードマップを描き、その後、圧縮機や蓄圧器、プレクール機器、ディスペンサーなどのコスト低減や小型化、軽量化が進むことを期待したい。

  • 設置時の規制緩和

 約30項目の規制緩和を申し入れ中というものの、かなり時間を要するのではと思う。総務省消防庁「電気自動車用急速充電器設備の安全対策に係る調査検討会」委員として活動した経験から言えば、実際にやってみなければ分からないことが多い。規制を緩和するにあたって、各種試験や判断の裏付けが必要となる。このため、FCVの市販が始まった後、いろいろなデータを採り、それを基に協議が進み、徐々に規制緩和されていくことになろう。

  • 地域社会の受け入れ

 設置にあたっては、地域住民の理解が必須である。これらの社会受容性を高めるには、地道な活動を続けることが大切だ。

 第2に水素の輸送だ。

 聞けば聞くほど、課題が多いように思える。圧縮水素では1台の専用車両の輸送できる量に限りがある。液化水素では輸送量と充填するFCVの台数とのバランスが問われる。輸送できる水素の量が10倍になったとしても、水素を求めるFCVがステーションに来なければ無駄が増える。電気自動車の初期にも似たようなジレンマがあった。自動車メーカーが販売する車両台数のコミットメントと販売エリアが定まらなければ、水素ステーションの設置が決まらない。水素の輸送方法についても同じことがいえる。

 圧縮水素や液化水素以外にも、有機ケミカルハイドライドなど多様な方法も検討されている。変換プロセスにおけるエネルギー効率も含めて、今後のイノベーションに期待したい。

 第3に水素ステーションの運営だ。

 初期段階では、推進企業による持ち出しが続き、これが普及策となる。その後のさらなる普及の鍵を握るのは、「水素ステーションプロバイダー」の存在であろう。彼らがどのようにビジネスモデルを描けるかが普及度合いに大きく影響を及ぼす。

 燃料電池車普及のためのキーは、水素ステーションだ。各社が手探りの中で取り組みを始めている。いろいろな技術が開発途上にある。現時点では「実際にできること」と「課題となっていること」をオープンにしていくことで、正しい理解が深まっていくように思われる。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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