グリーン電力とコージェネでCO2を60%削減、運河の水までエネルギー源にスマートシティ

電力会社との競争拡大に備えて、ガス会社が電力と熱を供給する総合エネルギー事業の強化に乗り出した。東邦ガスは再生可能エネルギーとコージェネレーションを組み合わせた高効率のシステムを名古屋市の臨海地区に導入する。地区内を流れる運河の水も熱源に利用してCO2の排出量を削減する。

» 2014年12月15日 11時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 ガス会社で売上3位の東邦ガスが再生可能エネルギーを活用したスマートタウンを名古屋市内で開発する計画だ。臨海部の「港明(こうめい)地区」を再開発して、地区内の各施設に電力と熱を効率的に供給できるシステムを構築する(図1)。電力とガスの小売全面自由化に向けて、電力とガスを組み合わせて提供する「総合エネルギー事業」のモデルケースに位置づける。

図1 名古屋市・港明地区のエネルギー供給計画。出典:東邦ガス

 エネルギーを供給する電源と熱源にはガスコージェネレーションと太陽光発電のほかに、コージェネの排熱を利用できるバイナリー発電機、さらには運河の水を取り込んで冷熱・温熱を供給するヒートポンプを導入する。港明地区には川から運河が流れているため、身近にある再生可能エネルギーを熱源に生かす。

図2 再生可能エネルギーとガスコージェネレーションを組み合わせたエネルギー供給システム。出典:東邦ガス

 地区内に安定した電力を供給できるように、大型の蓄電池とエネルギー管理システムも導入する予定だ。蓄電池は600kWまでの電力を充放電できるNAS(ナトリウム硫黄)電池を採用する。

 各施設が消費する電力はピークの時間帯で5000〜8000kWを想定している(図3)。これに対してコージェネ、NAS電池、太陽光発電などを合わせると3000〜4000kWの電力を供給できる。電力が足りない場合には外部から調達するが、そのうちの1000kWは木質バイオマスによるグリーン電力を購入してCO2排出量を削減する方針だ。

図3 エネルギー負荷の想定(左)、主な機器の能力(右)。出典:東邦ガス

 電力と熱の需要と供給はCEMS(コミュニティ向けエネルギー管理システム)で制御する。東邦ガスは地区内の中心部に「エネルギーセンター」を建設して、主要な機器と合わせてCEMSを導入することにしている。エネルギーセンターのCEMSは各施設のBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)などと連携しながら、地域全体の電力と熱の使用量を抑制する(図4)。

図4 地域全体のエネルギーの需要と供給を最適に制御するCEMS(コミュニティエネルギー管理システム)。出典:東邦ガス

 東邦ガスは2015年の夏にエネルギーセンターの工事を開始して、2017年からCEMSを使って電力と熱を供給する計画である。高効率の電源・熱源や省エネ機器の導入効果で、エネルギー使用量とCO2排出量を1990年時点の標準値よりも20%以上削減する。

 さらに再生可能エネルギーを利用してCO2排出量を大幅に減らし、CEMSによる制御で削減量を拡大する。すべての効果を合わせると、エネルギー消費量で40%、CO2排出量で60%の削減を見込んでいる(図5)。

図5 エネルギー使用量とCO2排出量の削減効果。出典:東邦ガス

 加えて災害時には再生可能エネルギーと蓄電池から電力と熱の供給を可能にする。ガス管は災害に強い中圧導管を導入して、コージェネによる電力と熱の供給も継続できるようにする。自立・分散型のエネルギー供給システムを構築することで、隣接する区役所や防災センターにも非常用の電力を提供できる体制を整備する考えだ。

 東邦ガスは特定の地域に限定して電力を販売できる「特定供給」の許可を国から取得する。地域内の各施設にはエネルギーセンターから自営の送電線を使って電力を供給する形になる。さらに集合住宅に安価な電力を提供する「高圧一括受電サービス」も開始する。2016年から2017年にかけて実施される電力とガスの小売全面自由化に備えて、総合エネルギー事業の基盤を強化する狙いがある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.