日本が認めるスイスの技術、直流で効率良く送電できるHVDC電力供給サービス(2/2 ページ)

» 2014年12月18日 09時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
前のページへ 1|2       

低い電力損失を実現可能に

 「HVDCには2つの方式がある。国内の9つのプロジェクトに採用された他励式と、比較的新しい自励式だ*2)。今後大規模プロジェクトが期待できる地中や海底などの大規模送電では、系統安定化メリットがある自励式に優位性がある。ABBは自励式HVDCでの変換ロスが当社よりも少ない。当社は2.5〜3%。ABBは1%だ」(日立製作所)*3)

 図3にHVDCを構成する要素と、合弁会社が扱う範囲(赤い点線)を示した。合弁会社はHVDCシステムの設計からエンジニアリング、機器供給、アフターサービスまでを扱う。図の中央左右にある交流用機器(GIS:ガス絶縁開閉装置)に挟まれた部分がHVDCシステムだ。

 左側の電力系統から送られてきた電力を、まず変換用変圧器で調整する。その後、交直変換器で交流を直流に変換、ある程度の距離を直流で送電する。その後、直交変換器で交流に戻す。その後は先ほどと逆の順番で処理していく。変換用変換器で電圧を調整し、相手側の電力系統に接続する。「図中で制御・保護システムとある部分は、コンピュータ群とその上で動作するプログラムである」(日立製作所)。

*2) 他励式と自励式の主な違いは変換器(交直変換器と直交変換器)にある。他励式は変換器にサイリスタなどのパワー半導体デバイスを利用する。自励式はIGBTなどを用いる。自励式は無効電力を供給できるため、系統安定化対策を別に設ける必要がなく、HVDCシステムの全体構成を簡略化しやすい。
*3) 「ABBの技術的な優位性はもう1つある。交直変換器などでの高調波ノイズの発生量が当社よりも少ないことだ」(日立製作所)。

図3 HVDCシステムの内容と合弁会社の担当範囲 出典:日立製作所

日立の営業能力でABBの技術力を生かす

 ABBにも合弁会社を設立するメリットがある。「国内の電力会社は海外メーカーの製品や技術を積極的に採用することをしない。当社が営業ネットワークを駆使して、直接顧客と契約を結ぶプライムコントラクターとなり、それぞれの案件を合弁会社に発注する形を採る」(日立製作所)。日立製作所のプロジェクトマネジメントや品質保証プロセスなども役立つとした。

図4 ABBが手掛けたプロジェクトの一覧(左)とABBのHVDC技術向上の記録(右) 出典:ABB

 ABBにはHVDCプロジェクトの実績がある。そもそもHVDC技術を1954年に世界で初めて商用送電線に導入したのはABBだ。世界中のHVDC設備の約半分(約100プロジェクト、合計1億2000万kWh以上)に携わっている他、HVDCに必要な全主要機器を自社で開発製造可能だという。1990年代に自励式HVDC技術(HVDC Light)を初めて導入した実績もある。自励式を採用したHVDCプロジェクトを図4の左(青い点と線)に示した*4)。全世界で完成した15の自励式プロジェクトのうち、14はABBが納入した。

 HVDCの送電距離や送電電力の記録も多い。2002年にはオーストラリアで世界最長の地中HVDC送電を実現した(180km、22万kW)。2005年にはノルウェーで洋上ガス採掘プラットフォームに電力を供給するために、陸上とつなぐ最初のHVDCを実現した(70km、8万8000kW)。2008年にはノルウェー、オランダ間で世界最長の海中送電の記録がある(580km、70万kW)。2010年には中国で世界最長、最大容量のHVDCを実現した。640万kWを1980km送電する。

 これだけの実績と技術があってもABBがHVDCプロジェクトにおいて単独で日本市場に「参入」するには困難があったということだ*5)。今回、日立製作所とABBが戦略的パートナーシップを結んだことで、日本の電力システムがより効率的になることを期待したい。

*4) 図4では他励式をHVDC Classic、自励式をHVDC Lightと表現している。図4の右ではそれぞれの技術が登場した時期の性能(電圧、容量、送電距離)と、現在の性能を比較している。他励式、自励式とも飛躍的に性能が向上していることが分かる。
*5) ABBには1960年に設立した日本法人などがあり、電力関連の各種機器などを扱っている。太陽光向けの大容量パワーコンディショナーも扱う(関連記事)。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.