壮大な夢「CO2フリー水素チェーン構想」、未利用資源と液化水素を組み合わせる和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(10)(2/3 ページ)

» 2015年02月17日 07時00分 公開

オーストラリアを選んだ理由とは

和田氏 褐炭の調達先としてオーストラリアを考えているようであるが、それはなぜか。また川崎重工業は褐炭採掘に関してどのような立ち位置にあるのか。

西村氏 世界の褐炭を調査した結果、各地に広く分布することが分かった。その中でもオーストラリアは地政学的に安定しており、褐炭資源が豊富に存在(賦存)する。オーストラリアの褐炭は、大陸東南部の大都市メルボルンから東に約200km離れたラトロブバレーと呼ばれるところに多く分布している。採掘は露天掘りであり、地表から深さ250mまで1つの層となっていることが確認されている。さらに深い位置にも存在するようだ。埋蔵量は日本の総発電量240年分とも言われている。現在は、褐炭発電所を経営するオーストラリアAGL EnergyやフランスGDF Suezなどが褐炭の採掘・発電を行っている。

 当社は、そこで採掘された褐炭から水素を製造するエネルギー企業に、技術と製造システムを提供することでお手伝いしたいと考えている。当社の役割はあくまで他社のプラントシステムに必要な技術を開発するというもの。エネルギー企業として水素の製造や販売を行い、運営することは考えていない。

和田氏 褐炭から水素を製造すると、必ずCO2が出る。これはどうするのか。

西村氏 オーストラリア政府とビクトリア州が、「CarbonNet」と呼ばれる二酸化炭素(CO2)の分離、回収、貯留(CCS)のためのプロジェクトを推進中である。水素製造の副産物として生じたCO2は、ラトロブバレーから東に80km離れた海底に大規模貯留を行う予定だ。連邦と州政府はこれまでに、約200億円をかけて地質調査を行っている。実施は2020年以降になる見込みだ。プロジェクトが実施に移れば副生CO2を現地で貯留処置できる。こうして水素はCO2フリーとなる。オーストラリア側にも、これまで輸出できなかった褐炭から水素を製造して輸出産業とし、雇用を創出できるメリットがある。

水素に占める褐炭のコストは1/10以下

和田氏 褐炭からの水素製造については理解できた。だが、輸送する場合にはオーストラリア側と日本側に設備が必要になるのではないか。

西村氏 水素をガスのまま運ぶことは効率的ではないので、当社の液化水素技術の応用を考えた。オーストラリア側では、水素製造、ガス精製、水素液化を行う水素製造プラントはもちろん、水素貯蔵・積荷プラントの建設が必要となる。日本側では、液化水素運搬船で運ばれてきた液化水素を揚荷・貯蔵するプラントが必要だ。

和田氏 かなり大規模なプラントのようだ。ロードマップとしてどのタイミングを想定しているのか。

西村氏 商用開始は2030年。3系列のプラントを稼働させることを目標としている。

和田氏 商用チェーンができた場合、水素価格はどれくらいになるのか。

西村氏 あくまで試算ではあるものの、商用チェーンとして年間22万5400トンを日本に受け入れた場合、水素コストは29.8円/Nm3(0度、1気圧換算)となる。その中で褐炭が占めるコストはわずか2.3円/Nm3である。

技術実証パイロットチェーンで確認

和田氏 将来の大規模な商用チェーンを確立する以前に、CO2フリー水素チェーンを実証する実験が必要だろう。

西村氏 まずは技術実証パイロットチェーンを作る予定だ(図3)。これは商用チェーンの80分の1の規模に相当するものだ。水素製造と輸送、貯蔵プラントに関する一連の設備を小規模に建設する。2020年までに建設する計画を進めている。投資額は数百億円規模となる。

図3 技術実証構想(クリックで拡大) 出典:川崎重工業

和田氏 オーストラリアから液化水素を運ぶ液化水素運搬船の状況は。従来の輸送船と比べて価格はどの程度なのか。

西村氏 まずは、技術実証パイロットチェーン向けに小型船を建造する計画を進めている。現在は基本設計を行っており、2020年に進水予定だ。規模は全長120m、型幅20m。2013年12月に、日本海事協会から世界初の基本承認を獲得した(関連記事)。商用チェーンで用いる大型液化水素運搬船の価格は、初期のLNG運搬船と同等になると試算している。

和田氏 CO2フリー水素チェーンを実現するために残っている技術的課題は何か。

西村氏 液化水素運搬船や基地建設はこれから開発していく。その中で、船と陸上基地の間で液化水素を積み下ろしする「ローディングアーム」と呼ばれる継手を開発しなければならない。緊急時に船からローディングアームを安全に切り離して離脱できる装置も必要だ。当社はこれらに関して、LNGで培った技術を応用し、開発可能だと考えている。

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