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» 2015年02月17日 07時00分 UPDATE

和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(10):壮大な夢「CO2フリー水素チェーン構想」、未利用資源と液化水素を組み合わせる (3/3)

[和田憲一郎(エレクトリフィケーション コンサルティング),スマートジャパン]
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新開発の圧縮水素輸送トレーラーを活用

和田氏 日本に運ばれてきた液化水素を各地の水素ステーションに運ぶ必要がある。どうやって運ぶのか。

西村氏 時期に応じて2段階の手法を想定している。燃料電池車(FCV)導入期は、圧縮水素として運ぶ予定だ。高圧(45MPa、450気圧)に加圧した水素を、炭素繊維強化樹脂(CFRP)のボンベを用いて運ぶ。これまでの容器は鋼製であったため、重くて大量に運ぶ際に適していなかった。CFRPのボンベを使って軽量化した圧縮水素輸送トレーラーを開発した。日本初のものであり、既に運用が始まっている(図4)。

 FCV普及期には、液化水素のまま運ぶことを想定している。「H-IIロケット」の燃料輸送などで、国内でも運用実績がある技術だ。液化水素のメリットは輸送量。水素容量に換算して、圧縮水素を260kg運搬する容量なら、液化水素であれば2900kgと格段に多く輸送できる。

yh20150217Wada10_trailer_590px.jpg 図4 開発した圧縮水素輸送トレーラー(クリックで拡大) 出典:川崎重工業

水素には規制が多い

和田氏 水素ステーションに水素を運んだ後はどうするのか。圧縮水素であれば実績があるものの、液化水素の場合、どのようにして貯蔵するのか。液化水素のままか、それともいったんガスに変えて蓄圧器に貯蔵するのか。

西村氏 液化水素の場合は液化水素タンクが必要となる。現在の規制では、地下タンク設置は認められていない。地上に液化水素タンクを建設する。これも規制緩和の1つの課題だと考えている。液化水素を使う場合は、熱交換器を用いて気化させる。その後は圧縮機を使って加圧しディスペンサーに供給する。この部分は既存の水素ステーションと同じだ。

和田氏 今、規制緩和の話が出た。地下タンク以外に緩和を望む規制は。

西村氏 CO2フリー水素チェーンを実現しようとすると、多くの部分が規制対象になっている。その緩和を望みたい。水素揚荷・貯蔵については「コンビナート等保安規則」で、事細かに決められている。安全確保を大前提として、使用材料規制や敷地規制などで緩和を望みたい。

和田氏 FCV以外の水素の活用シーンとしてどのようなものを想定しているのか。

西村氏 当社の技術を利用すれば、大量の水素を運ぶことができる。こうなると活用法が広がる。例えば当社が開発している水素ガスタービンなどを使うことで、将来は水素発電の実現も考えられる。順次開発を進めていきたい。

和田氏 最後にCO2フリー水素チェーンの実施時期を教えて欲しい。

西村氏 まずは、ここまで説明した通り、技術実証のパイロットチェーンを2020年までに建設し、技術を確立したいと考えている。東京オリンピックが2020年に開催されるので、ここでの運用が目標だ。商用システムの実用化は2020年代を想定している。

今、最も大切なこと

 取材前にも、ある程度分かっているつもりだった「CO2フリー水素チェーン構想」。実際に聞いてみると想像以上にスケールの大きなプロジェクトである。FCVのみならず、今後大量に水素が必要となる社会を前提とした絵が描かれている。そして、水素を語る場合、常に問題となるCO2についても、オーストラリア政府との連携により、海底での貯留を進め、CO2フリーを実施する計画だ。

 しかし、これら全ての段階において川崎重工業が資金を出資し、主導権を発揮してプロジェクトを進める形ではない。川崎重工業は基本構想を描き、その中でエネルギー企業などに技術や製造システムを提供するスタンスである。これは千代田化工建設が進める「有機ケミカルハイドライド法による水素貯蔵輸送システム」(関連記事)とは全く異なる点だ。

 そのため、関係者は多彩な顔ぶれとなる。オーストラリア政府をはじめ、現地の褐炭採掘企業、エネルギー企業、さらに国内外のプラント企業や水素ステーション事業者、さらには発電所(水素発電)にも広がる。プロジェクトの規模は、80分の1の技術実証パイロットチェーンで数百億円、商用となると数兆円規模になると予想できる。

 ここまでに分かった利点と懸念点をまとめると以下のようになると思われる。

利点:
  • 大量の未利用資源(褐炭)の有効活用
  • 2国間の経済交流と両国での雇用創出
  • 大量の低コスト水素の実現
  • CO2フリー水素の実現
  • 水素発電など大規模な水素活用への道筋
懸念点:
  • 巨額の設備投資と高度な技術開発
  • プロジェクトのキーとなるエネルギー企業の存在
  • FCV以外の水素の用途開発
  • 水素貯蔵プラントなどに対する安全性、非常時の対応

 このような状況から、CO2フリー水素チェーン構想を実現するプロジェクトはどうしても次のような条件を考えなくてはならない。

  • 10年、20年と続く長丁場のプロジェクトであること
  • チェーン(鎖)という名のごとく、プロセスのどの1つが欠けてもうまくいかない
  • 短期間で目先の利益を追う企業同士では、不協和音が生じ、たちまち崩壊する

 つまり、このプロジェクト成功のために今、最も大切なことは「CO2フリー水素チェーン構想」を充実させるとともに、理念に共感し、どのような経済変動が起ころうとも、プロジェクトとともに「心中する」とコミットする、気概を持った企業・人達を集めることができるかどうかであろう。

筆者紹介

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和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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