水素とクルマをつなぐ鍵、「ディスペンサー」の課題は何か和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(7)(1/3 ページ)

水素製造装置や圧縮機を製造する企業を取り上げ、なぜ水素関連の設備が高コストなのか、課題と取り組みについて聞いた前回に引き続き、今回は、もう1つの主要機器でもある「水素用ディスペンサー」に焦点を当てる。コストや課題についてタツノの担当者に聞いた。

» 2014年12月15日 07時00分 公開

 水素ステーションの設備はガソリン向けと比較して数倍高額だ。なぜなのだろうか。理由の1つは水素ステーションを構成する機材にある。水素製造装置や圧縮機、蓄圧器、ディスペンサーなどだ。前回は水素製造装置や圧縮機を取り上げ、なぜ費用が高いのかを探った。

 今回はもう1つの主要機器である水素用ディスペンサーに焦点を当てる。水素用ディスペンサーは燃料電池車(FCV)に直接、水素ガスを充填する機器。ガソリン用はもちろん、圧縮天然ガス(CNG)用の計量機(ディスペンサー)とも機能や構造が異なる。

 水素用ディスペンサーを開発・販売しているタツノの取締役営業本部長である能登谷彰氏と、営業部課長兼水素プロジェクト営業チームリーダーの森泉直丈氏に、現在の取り組みや今後の課題について聞いた(図1)。

図1 タツノの森泉直丈氏(左)と能登谷彰氏

LPGやCNG向けの技術を応用

和田憲一郎氏(以下、和田氏) 水素ステーション用ディスペンサーについて、どのように取り組んできたのかを教えて欲しい。

能登谷氏 当社はガソリンをはじめとした各種自動車用の燃料計量機の専門メーカーだ。タクシーで使われている液化天然ガス(LPG)の計量機や、天然ガス車向けの圧縮天然ガス(CNG)の計量機も製造している。これらの技術を使って、水素ステーション用のディスペンサーも開発・製造できるのではと考えた。現在は社内の各部門を横断した「水素プロジェクト」を立ち上げて取り組んでいる。

 当社における水素ステーション用ディスペンサーの始まりは2002年にさかのぼる。水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)において岩谷産業が受託した「JHFC横浜・鶴見水素ステーション」(横浜市鶴見区)にディスペンサーを納品したことだ。近年では水素供給・利用技術研究組合(HySUT)のような組織も立ち上がり、インフラ整備に業界全体で取り組んでいる。さらに自動車メーカーもFCVの開発に積極的に対応していると実感している。水素に関してはまさに山が動いている。

 当初の水素ステーションと現在のものには違いもある。充填圧力が35MPa(350気圧)からより高圧の70MPa(700気圧)まで上がったことである。70MPa用ディスペンサーの開発は2009年ごろに始まった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とHySUTの共同実証事業で、JX日鉱日石エネルギーが建設した「海老名中央水素ステーション」(神奈川県海老名市)には、当社が70MPa対応のディスペンサーを納入している。

 経済産業省は、2015年度までに水素ステーションを100カ所建設することを目標として掲げている。当社はガソリンやLPG、CNGで培った技術とノウハウを基に、ディスペンサーのさらなる改良を続け、多くの水素ステーションに採用されるように全社を挙げて取り組んでいく。

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