電力小売り自由化に向けITベンダーも熱視線電力供給サービス

新たに電力小売り事業に参入する新電力事業者に対するITソリューションの提案が加速している。料金計算や契約管理などさまざまな業務に必要なITシステムの導入を見込んだものだ。

» 2015年03月06日 13時00分 公開
[三島一孝,スマートジャパン]

 2015年2月25〜27日に東京ビッグサイトで開催された創エネ、省エネ、畜エネ技術を集めた総合展「スマートエネルギーWeek2015」には、今回から新たに新電力ビジネスに関連した「電力自由化 EXPO」が設けられた。家庭への電力小売は2016年4月から一般電気事業者だけでなく、新たに電力を販売する事業者「新電力(特定規模電気事業者)」にも開放されることになる。新電力ビジネスの運営にはさまざまな業務が発生しそれに伴う専用のITシステムなども必要になるが、同展にも多くのIT関連企業が出展し、2016年以降の新たな小売事業者に向けた提案を行った。

低コストシステムで新規顧客開拓に取り組むIBM

 日本IBMは、新電力・再生可能エネルギーソリューションとして、さまざまなITソリューションを紹介した。IT大手としての総合力を生かし、新電力事業計画策定支援などのコンサルティングから、電力小売りソリューション、スマートメーター運用セキュリティソリューションなど、多岐にわたるシステムの提案を行った。

 新電力に向けた提案の中心になる電力小売ソリューションは、料金システムなどの基幹業務系システムと、対最終顧客に向けたシステムを最適に組み合わせたパッケージシステムとなる。基幹業務システムには、顧客料金システムの他、調達する電力と顧客に販売する電力を一致させる同時同量支援システム、送配電事業者連携ゲートウェイ、共通データベースなどのシステムで構成。このうち、同時同量支援システムには東洋システム開発の「らくでん」を使用する。

 また顧客料金システムは、アイテック阪急阪神と伊藤忠ケーブルシステムが開発したケーブルテレビ事業者向け顧客管理システム「i-PLAT」をベースとしたシステムを用意する。

 日本IBM スマータシティ事業 テクニカル・ソリューション エグゼクティブITスペシャリストの赤石雅典氏は「特定規模電気事業者は既に500社以上の登録があり当社にとっても新規顧客獲得の大きなチャンスだと考えている。しかし、一方でこれらの企業は予算規模が小さく、より低コストでシステム導入を行えるようにすることが重要だ。ケーブルテレビ事業者向けのシステムを活用したり、クラウド基盤を活用したり、要望に合ったシステムソリューションを提案していく」と語っている。

photo IBMの電力小売ソリューションの概要(クリックで拡大)※出典:日本IBM

 この他、ITホールディングスグループのTISやインテックなども電力自由化 EXPOに出展しており、顧客接点業務代行サービスやクラウドサービス、CIS(顧客情報システム)ソリューション、受給管理業務ソリューション、新電力(PPS)事業向けBPOサービスなどを展示(関連記事:電力の小売事業者向けITシステム、同時同量の計画管理まで支援)した。料金システムや顧客管理システムなど、必須となるITシステムが導入されていない新電力事業者は、ITベンダーにとっても大型新規市場で、各社が積極的にアピールを行っている。

スマートメーターの「Bルート」を狙うIIJ

 一方、ユニークなソリューション提案で注目を集めていたのがインターネットイニシアティブ(IIJ)の「PMSサービスプラットフォーム」だ(関連記事:電力会社を経由しないでデータ収集、スマートメーターと直結する新サービス)。このプラットフォームの特徴は、スマートメーターの「Bルート」に絞り込んだという点だ。

 スマートメーターの情報伝達のルートには、Aルート、Bルート、Cルートの3つのルートが存在する。Aルートはスマートメーターと電力会社をつなぐルートで、電力会社に電力使用量などのデータを送る時に利用される。Cルートはこの電力会社に集まったデータを第三者が活用するためのもので、電力会社とその第三者を結ぶルートとなる。そしてBルートは、スマートメーターとそれが設置されている建物内のHEMS(家庭用エネルギー管理システム)を結ぶルートだ。例えば、家庭内で使用している機器のオンとオフによって電力がどう変わるかなどの状況が見えるようになるため、デマンドレスポンスなどに効果を発揮する。

 IIJではこのBルートに的を絞り、スマートメーターの検針データをリアルタイムで取得しクラウドシステムと通信を行う端末「SA−W1」、検針データを蓄積・管理するクラウド型自動検針システム、SA−W1を集中管理するマネジメントシステムの3つを組み合わせたプラットフォームを提供。Bルート用の通信プロトコルであるECHONET Lite 認証およびSMA認証を取得し、2015年6月から実証実験環境の提供を開始する。

photo IIJのPMSサービスプラットフォームの全体像(クリックで拡大)出展:IIJ

 Bルートで獲得したデータについては経済産業省の「HEMSを通じて取得した電力利用データをり活用した新ビジネス創出(PDF)」とした指針により、他のビジネスへの展開の可能性が示されている。例えば、HEMSデータを基にした在・不在判断による宅配サービス運営や高齢者見守りサービス、デマンドレスポンスに応じたクーポンやポイントサービス、家庭内での使用機器のメンテナンスサービスなどが検討されている。

 IIJ プロダクト本部 基盤プロダクト開発部 応用開発課長の齋藤透氏は「電力自由化 EXPOの会場を見てもBルートに絞り込んだ提案は他社にはなかった。その点で独自性を打ち出せているのではないか。他の新規ビジネスへの展開を考えた場合、対象顧客は新電力事業者だけでなく、HEMSデータを利用した新たな事業者である可能性も広がる。Bルート向け情報プラットフォームとして先行者の立場を築きたい」と狙いを語っている。

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