エネルギー分野に注目するIT企業とコンサルティング業界エネルギー業界の転職市場動向(6)

電力小売の全面自由化をビジネスチャンスととらえ、業界を問わずエネルギー分野の取り組みが始まっている。IT企業やコンサルティングファームによる人材採用の動きも活発になってきた。専門性の高い2つの業界で進むエネルギー分野の転職市場について解説する。

» 2015年05月29日 13時00分 公開

第5回「エネルギー業界の転職 成功の秘訣を探る」

 エネルギー業界以外の企業が、エネルギー分野の経験を持つ転職希望者に対して採用意欲を見せるようになってきた。特に顕著な動きがコンサルティングファームとIT(情報技術)系の企業で始まっている。昨年と比較して、それぞれで求人提案数が6.0倍と5.3倍に増加している。(図1)

図1 エネルギー業界の人材に対する求人提案数の伸び。出典:JAC

 こうした動きの背景にあるのは、電力の自由化を見据えたビジネスの拡大とともに、業界を越えた取り組みが顕在化し始めたことだ。「実際にコンサルティグファームでは2014年以降、電力・エネルギー分野において組織拡大の動きが目立つ」とジェイ エイ シー リクルートメント(JAC)のコンサルティングファーム業界専任の転職コンサルタントである杉山茂は言う。

人材獲得を急ぐコンサルティングファーム

 コンサルティングファームでは電力の小売全面自由化を機にマーケットが大きく動いている。既存の電力会社や電力関連メーカーのほか、異業種から電力業界へ新規参入する企業などから案件の依頼が増えてきた。例えば、小規模な送配電ネットワークを構築するマイクログリッドの立ち上げ、発電所の新規立ち上げ、さらにはエネルギー企業の海外進出支援などがある。

 その中でも太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギーを中心とした案件がコンサルティングファームで拡大している。同時に、顧客情報やスマートメーターを管理するシステムの整備をはじめ、設備保全の最適化など、多様化していく電力供給・小売サービスに対応するための準備も活発に始まっている。

 このような案件の増加に対応すべく、コンサルティングファームでは人員の確保が急務となっている。中途採用はもとより部署間の異動も含めて組織の強化を進めている状況だ。電力部門の人員を2倍近くまで増やしたいという企業もある。特に電力会社でキャリアを積んだ人材や、太陽光などの再生可能エネルギーに関する知識をもつ人材が歓迎されている。

 コンサルティグファームが取り組む案件は国内のエネルギー分野のみならず、海外のスマートシティ構築など、そのスケールの大きさが魅力だ。より大きな仕事にチャンレジしたい、という人にとっては絶好のチャンスと言えるだろう。

エネルギー管理システムの開発が進むIT業界

 新しい電力システムに向けてスマートグリッドの必要性が拡大するのに伴って、IT業界でも電力を有望な新規分野として取り組む企業が増えてきた。国内の通信・ネットワーク業界専任の転職コンサルタントを務める島田祥希は「IoT (Internet of Things:モノのインターネット)の時代をにらみ、大量の機器を管理するためのプラットフォーム開発が進んでいる。その流れでエネルギー分野にもIoTの波が来ている」と言う。

 具体的には、電力の小売自由化で重要になるスマートメーターと建物内のエネルギー管理システムを連携させるシステムの開発などである。この分野で主に必要とされる人材は、組み込みソフトウエアの知識や開発経験をもつエンジニアのほか、クラウドに蓄積したデータの解析などを行うWeb系のデータアナリストだ。実際に電力会社の出身者がIT企業へ転職するケースも出始めており、業界の垣根はますます低くなっている。

 電力の自由化や再生可能エネルギーの盛り上がりなどをビジネスチャンスととらえ、業界の垣根を越えた新たな取り組みが数多くの企業へ広がってきた。エネルギー市場の拡大とともに、転職市場においても人材を求める動きは加速していく。

著者プロフィール

由里 朋久(ゆり ともひさ、左)株式会社 ジェイ エイ シー リクルートメントEnergy Infra Plant Team電力業界(再生エネルギー、節電ビジネス、IPP、PPS)専任コンサルタント。転職コンサルタントとして10年以上の経験を持つ。

上野 浩幸(うえの ひろゆき、右)株式会社 ジェイ エイ シー リクルートメントEnergy Infra Plant Teamプラントエンジニアリング業界、建設コンサルタント業界専任コンサルタント。入社以来一貫してプラントエンジニアリングと建設コンサルタント企業を担当している。


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