塗って作れる有機薄膜太陽電池の変換効率10%を達成太陽光(1/2 ページ)

理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発分子機能研究グループ 上級研究員の尾坂格氏らの研究チームは、半導体ポリマーを塗布して作る有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率を、10%まで向上させることに成功したと発表した。

» 2015年06月08日 07時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 次世代太陽電池の有力候補の1つとして、有機薄膜太陽電池(OPV)が注目を集めている。太陽電池の種類は「シリコン系」「化合物系」「有機系」の3つに分けることができるが、現在主に利用されているのが、単結晶や多結晶のシリコン系だ。ただ、これには、コストが高くなる点などの他、パネルそのものも硬くて重いということや、設置場所が限られるなどの課題があるとされている。

 これに対して、有機薄膜太陽電池(OPV)は、プラスチックや薄い金属に半導体ポリマーを塗布して作るため、しなやかで軽く、3D曲面にすることも可能な他、製作コストが安い、サイズを選ばないなどの利点がある。ただ一方で、OPVにはエネルギー変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換する効率)が、既にエネルギー変換効率20%以上を達成しているシリコン系の太陽電池の半分程度と低いという課題がある。これの向上が実用化に向けての最大の課題となっており、変換効率10%が当面の目標値になっている(関連記事)。

 理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発分子機能研究グループの上級研究員 尾坂格氏、グループディレクターの瀧宮和男氏と、北陸先端科学技術大学院大学 教授の村田英幸氏、博士研究員のバルーン ボーラ氏、高輝度光科学研究センターの研究員 小金澤智之氏らの共同研究チームでは、これらの課題を背景にOPVで変換効率10%を達成すべく、半導体ポリマーを含む発電層や素子構造の改善に取り組み、成功したことを明らかにした。また、変換効率の向上には、半導体ポリマーの分子配向に合った構造のOPVを作製することが重要であることを明らかにした。

発電層の厚さを2倍にすることに成功

 共同研究チームは、以前に理研のグループが開発した半導体ポリマー「PNTz4T」という、従来のものに比べ結晶性の高い半導体ポリマーを用いたOPV素子の発電層や素子構造を改善することで、変換効率の向上を目指した。

 その結果、半導体ポリマーとフラーレン誘導体(炭素のみで構成される多面体分子の総称)を混合して作製した発電層の厚さを、従来の約150ナノメートル(nm)から約300nmと2倍に厚くすることで、電流密度が大幅に増大し、変換効率が約6%から8.5%程度まで向上することを発見した。さらに、従来のOPV素子の陽極と陰極の配置を入れ替えた逆構造素子を適用することで、変換効率を10%に向上させることに成功した(図1)。

photo 図1:PNTz4Tを発電層として用いたOPV素子の電流・電圧特性 ※出典:理研

 太陽電池は発電層を厚くすると光吸収量が増えるため、電荷の発生量も増加する。一般的に半導体ポリマーはシリコンなどの無機半導体に比べてホール移動度が低いため、ホールが電極に到達する前に電子と再結合する。そのため電流として取り出すことが困難となり、変換効率は低下します。しかし、PNTz4Tは従来の半導体ポリマーに比べて結晶性が高く、ホール移動度(物質中において正の電荷の移動しやすさを示す値)が高いため、発電層を厚くしてもホールが電子と再結合せずに電極まで到達できる。そのため、電流量が増大し、変換効率が向上したと見られている。

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