小売全面自由化が始まると、事業者間で電力の売買が活発になっていく。発電した電力だけではなくて、節電した電力の取引も可能になる。「ネガワット取引」と呼ばれるもので、需要が増加する時間帯に使用量の削減分を売ることができる。2020年には卸電力市場でもネガワット取引が始まる。
第33回:「小売全面自由化で再エネの買取制度が変わる、卸電力市場の取引価格に連動」
「ネガワット取引」は文字通り、電力量(ワット)の削減分(ネガティブ)を売買することである。通常は「アグリゲータ」と呼ぶ仲介会社が間に入って、電力会社の要請に応じて一般企業が節電に協力する方法をとる(図1)。
このように電力会社からの要請を受けて節電に協力することを「デマンドレスポンス」と呼び、デマンドレスポンスを実施することによってネガワット取引が発生する仕組みだ。協力した企業には節電した電力量に応じて報奨金が支払われるシステムになっている。
これまでも夏の昼間などに電力の需給状況が厳しくなった場合にネガワット取引が行われてきた。節電分にプレミアムを付けて電気料金から割り引く方法が一般的だが、今後は節電した電力そのものを売れる環境が整っていく。2016年4月に実施する小売の全面自由化に伴って、小売事業者が電力を一時的に調達する手段としてネガワット取引を活用する可能性が出てくる(図2)。
さらに2020年4月の発送電分離に合わせて、日本卸電力取引所(略称:JEPX)の中に「リアルタイム市場」を創設する計画がある。発送電分離で電力会社の送配電部門が独立の事業会社になると、地域の電力の需給バランスを調整するためにリアルタイム市場を利用する予定だ(図3)。
政府はネガワット取引の拡大に向けて、事業者や需要家が守るべきガイドラインを2015年3月に策定した。特に重要な部分は節電量の算出方法である。このガイドラインでは、電力会社から節電の要請がなかった場合に見込まれる電力量を「ベースライン」として設定して、実際の使用量との差を削減分とみなす(図4)。
標準的なベースラインの設定方法では、直近の5日間のうち需要の大きい4日間の平均値を採用する。ただし土曜・日曜・祝日が含まれる場合には平均値から除外する。標準的な設定方法が適当でない場合もあるため、計算対象の日時を増やしたり減らしたりする代替案も併用できるようにした。
実際のネガワット取引の流れは次のようになる(図5)。電力会社が需給状況の予測に基づいてアグリゲータに節電を要請すると、アグリゲータは必要な節電量をもとに需要家ごとの節電量を設定する。アグリゲータから要請を受けた需要家はガイドラインに従ってベースラインを設定してから、必要な削減量を確保できるように節電を実施する段取りだ。
その後に節電量を計算して報酬を受け取ることができる。節電量は需要家が30分単位で計測してアグリゲータに報告する必要がある。もし実際の節電量が事前に決めた許容範囲を超えて不足した場合には、需要家やアグリゲータにペナルティを課すことが想定されている。ネガワット取引には電力の使用状況を正確に把握して電気機器を制御するためのエネルギー管理システムが不可欠になる。
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