群馬県では電力需要の大きい首都圏に近い立地を生かして、再生可能エネルギーによる発電設備が急増中だ。人口7700人の昭和村には関東で最大のメガソーラーが2017年の春に完成する。1万7000人の中之条町は自治体みずからが新電力を設立してエネルギーの地産地消に取り組んでいる。
関東の北部を形成する茨城・栃木・群馬の3県では軒並み太陽光発電の導入量が拡大している。いずれも東京電力の管内にあって、膨大な電力の需要を見込めるからだ。太陽光発電の導入量が増えても、北海道や九州のように出力制御の必要性は当面ない。用途が見つからない広い土地にメガソーラーを建設することは、発電事業者と土地所有者の双方にメリットがある。
群馬県の赤城山のふもとでは、関東で最大のメガソーラーの建設プロジェクトが進んでいる(図1)。発電能力は43MW(メガワット)に達して、年間の発電量は5000万kWh(キロワット時)にのぼる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1万4000世帯分に相当する。
メガソーラーが立地する昭和村は人口が7700人で、総世帯数は2600世帯である(図2)。村の住民が必要とする5倍以上の電力を供給できるようになる。発電した電力は固定価格買取制度を通じて東京電力に売電して、首都圏の電力需要を満たす役割を果たす。
建設工事が4月に始まり、運転開始は2年後の2017年3月を予定している。用地の広さは82万平方メートルに及び、ほぼ全面に合計17万枚の太陽光パネルを設置する計画だ。もともとゴルフ場の開発を計画していた場所だが、バブルの崩壊によって計画が中止になり、土地を所有する約50軒の農家がメガソーラーを誘致した。発電事業者には、いちごECOエナジーを選んだ。
メガソーラーの敷地の中には、3カ所に分散して調整池を設ける。昭和村は赤城山から流れ出る川で作られた扇状地で、過去に何度か大洪水の被害を受けたことがある。メガソーラーの建設に合わせて調整池と排水路を設けて、近くの河川に水を流す仕組みにする。排水設備の工事に1年かかり、その後に1年かけて太陽光パネルを設置していく。
いちごECOエナジーがメガソーラーの建設に投じる事業費は総額で130億円を見込んでいる。一方で売電収入は2013年度の買取価格(1kWhあたり36円、税抜き)を適用して年間で18億円になる。20年間の買取期間を合計すると360億円になって、運転維持費を加えても十分な収益を確保できる。未利用の土地が新たな事業を生み出し、地域の防災対策にも役立つ。
地域主導による再生可能エネルギーの取り組みでは、昭和村の西側に位置する中之条町が先進的だ。全国の自治体で初めて新電力の「中之条電力」を設立して、2014年9月から再生可能エネルギーで作った電力を中心に町内で販売を開始した(図3)。現在は太陽光発電による電力が中心だが、今後は小水力・地熱・バイオマスによる電力も調達して供給量を増やしていく。
これまでに町役場をはじめ公共施設30カ所に電力を供給する体制を作り上げた。小売の全面自由化が始まる2016年4月からは家庭向けにも販売する計画だ。主力の電力源は町内の3カ所で運転中のメガソーラーである。このうち2カ所は中之条町が国有林や耕作放棄地を借り受けて建設した(図4)。
発電能力はどちらも2MWで、年間の発電量は260万kWhを想定している。もう1カ所を加えた3カ所の合計では650万kWhになり、一般家庭の使用量で1800世帯分に匹敵する。中之条町の人口は1万7000人、総世帯数は6900世帯ある。町内の家庭が使う電力量の4分の1をメガソーラーで供給することができる。今後は小水力などの電力が加わって地産地消のネットワークを拡大していく。
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