水素で広がるスマートシティ、2020年のオリンピックに電力・熱・燃料を供給エネルギー列島2015年版(13)東京(1/3 ページ)

東京オリンピック・パラリンピックは日本が水素社会へ向かう大きなステップになる。首都圏を中心に水素ステーションが増えて、燃料電池車や燃料電池バスが都心を走り回る。競技場や選手村には燃料電池で電力と熱を供給する予定だ。大都市ならではの地中熱を取り入れたビルの建設も進む。

» 2015年07月14日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 大震災後の日本の電力は安全に供給できているのか。全世界が注目する2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、福島第一原子力発電所の事故のイメージを払しょくする絶好の機会になる。政府は競技場や選手村も含めて水素エネルギーの供給ネットワークを展開する計画で、世界に類のないクリーンな「水素タウン」の姿をアピールする狙いがある(図1)。

図1 東京オリンピック・パラリンピックにおける「水素タウン」の実証イメージ。出典:内閣府

 周辺地域の製油所から副生水素を大量に輸送できるようにするほか、再生可能エネルギーの余剰電力を使って水素を製造する実証にも取り組む。競技場や選手村に燃料電池を設置して電力と熱を供給するのと同時に、燃料電池バスを配備して排気ガスの出ない移動手段を提供する方針だ。

 これに合わせて東京都も水素エネルギーの導入を推進していく。2014年度から東京都内の事業者と住民を対象に、水素ステーションや燃料電池の補助金制度を開始した。水素ステーションは国の補助金と合わせて導入費用の5分の4をカバーする。燃料電池車はトヨタ自動車の「MIRAI」が300万円以上も安く購入できる。

 こうした施策によって、2020年のオリンピック・パラリンピックまでに燃料電池車を6000台に増やし、水素ステーションを35カ所に拡大する計画だ(図2)。燃料電池バスも50台以上に増やす予定で、2015年の夏から都営バスに採用して導入効果の実証を開始する。

図2 東京都の水素エネルギー導入目標。出典:東京都政策企画局

 計画どおりに水素エネルギーの供給ネットワークが拡大すれば、燃料電池車や水素ステーションの導入コストも下がっていく。東京オリンピック・パラリンピックではずみをつけて、5年後の2025年には都内だけで10万台の燃料電池車の普及を目指す。

 燃料電池車を増やす目的は環境面だけではない。非常時の電力供給手段として活用することも考えている。1台の燃料電池車から120kWh(キロワット時)の電力を供給できる想定で、非常時には8台を移動させれば病院の緊急医療に必要な1日分の電力を作り出せる(図3)。都内に大量の燃料電池車を普及させることは大都市の防災対策の点でも効果は大きい。

図3 燃料電池車・燃料電池バスによる電力供給能力。出典:東京都環境局(資源エネルギー庁の資料をもとに作成)

 東京を中心に水素の利用量が増えていくと、全国各地の再生可能エネルギーを活用する新たなルートが開けてくる。特に北海道には太陽光や風力発電のポテンシャルが大きく残っていて、道内の需要を大幅に上回る電力を作ることが可能になる。

 そうした余剰電力で水を電気分解して水素を製造する技術の開発が進んできた。北海道で作った水素を東京へ送ることができれば、日本全体で再生可能エネルギーを最大限に生かせる(図4)。現在のところ水素の大半は化石燃料から製造する必要があるために、CO2フリーのエネルギーではない。再生可能エネルギーから作ることで初めてCO2フリーになる。

図4 「北方グリーン水素サプライチェーンモデル」の構築イメージと課題。出典:豊田通商ほか

 政府が推進する「エネルギーキャリア」の研究開発プロジェクトでは、2018年度までに再生可能エネルギーから水素を製造する技術のほかに、水素を液化して輸送する技術にも取り組む。このプロジェクトで実証した技術やシステムを2020年の東京オリンピック・パラリンピックで展開することになる。

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