進化するCO2分離・回収法、2030年にコストを4分の1に低減火力発電の最新技術を学ぶ(5)(2/2 ページ)

» 2015年08月14日 15時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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薄膜でCO2を透過する「膜分離法」

 化学吸収法でも液体ではなくて固体を使うと、物理吸収法と同等の効率でCO2を分離・回収することができる。CO2と化学反応を起こすアミンなどを固体に吸着させて、吸収材として利用する。吸収後に60度くらいの蒸気を加えるとCO2を分離して回収することが可能だ(図6)。

図6 「固体吸収法」の例。出典:資源エネルギー庁(RITEの資料をもとに作成)

 従来の液体を使う化学吸収法の場合には、吸収したCO2を分離するために120度くらいの高温の蒸気を大量に必要とする。固体吸収法では低温の蒸気で済み、それだけコストが安くなる。物理吸収法と同程度のコストが見込まれている。

 CO2分離・回収方法の中で、現在のところ最もコストが低くなる可能性が大きいのは「膜分離法」である。固体の薄膜を使って、排ガスの中からCO2を透過して分離することができる(図7)。

図7 「膜分離法」の原理(上)とプロセス(下)。出典:資源エネルギー庁(RITEの資料をもとに作成)

 膜分離法はガスの圧力を利用してCO2を透過させる。CO2の分離・回収に必要なエネルギーが他の方法と比べて少なくて済むためにコストが安くなる。物理吸収法や固体吸収法の2分の1程度、化学吸収法の4分の1程度まで引き下げることが可能だ。

 課題はCO2を効率的に透過する膜の開発である。国内ではRITE(地球環境産業技術研究機構)が中心になって、化学メーカーなどと共同でCO2分離膜の研究開発に取り組んでいる。2020年代には実際の石炭火力発電設備に適用して実証実験を進める計画で、2030年をめどに実用化に必要な技術を確立させる。

 このほかにガスを燃焼する時に空気ではなくて酸素を使う「酸素燃焼法」がある。酸素で燃焼すると排ガス中のCO2の濃度が高くなって分離・回収しやすくなる(図8)。すでに必要な技術は確立できていて、海外では実証プラントを使って効果の検証が進んでいる。日本の有力企業が参加してオーストラリアで実証中の「カライド酸素燃焼プロジェクト」が代表例だ。

図8 「空気燃焼法」と「酸素燃焼法」の違い。出典:資源エネルギー庁(カライド酸素燃焼プロジェクトの資料をもとに作成)

 ただし酸素燃焼法は現在のところコストが高く、化学吸収法よりも3割ほど安い水準にとどまっている。燃焼に使う酸素を空気から分離するプロセスでコストがかかるためだ。低コストで酸素を分離できる技術の開発が求められる。

 CO2を分離・回収する技術は化学吸収法に始まって、酸素燃焼法の実証が進み、さらに2020年には物理吸収法と固体吸収法の技術を確立できる見通しだ(図9)。2030年までに火力発電のCO2排出量を大幅に削減するためには、それぞれの分離・回収技術を実用化して数多くの発電設備に適用できる状態が望ましい。

図9 CO2分離・回収技術とコスト低減(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

第6回:「CO2でバイオ燃料やプラスチック、太陽光のエネルギーが新たな価値を生む」

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