電力需給がひっ迫した時に電力消費を“自動”で削減できる技術として期待されている「自動デマンドレスポンス(ADR)」。ADRの実証事業に注力している京セラは、東京都内で会見を開き同社のADRへの取り組みの概要と今後の方針について説明。ADRをサービスとして提供し、自社のエネルギー関連事業をさらに強化していく方針だという。
電力の需要と供給のバランスを維持できない場合、電力会社などからの要請に応じて、需要家(利用者)が電力の使用量を抑制する「デマンドレスポンス(DR)」。標準的な実施方法では、電力会社からのDR要請に対して、アグリゲータが仲介役となって需要家の節電を取りまとめる。
従来、需要家へのDR要請はメールなどを利用し、需要家自身が機器を制御して節電に協力するといった「手動」の手順をとる場合が多かった。しかし最近ではIT技術を活用してこうした一連の流れを自動化する「自動デマンドレスポンス(ADR)」の実用化に向けた研究開発が加速している。
ADRは電力会社などからDRの実施を知らせる信号に応じ、需要家側の空調機器などをエネルギーマネジメントシステム(EMS)で自動制御して節電を行う仕組みだ。手動に比べて対応時間が短くなり、急なDR要請への対応やリアルタイムな需給調整が可能になるなどのメリットが期待されている。
このADRの実証研究に注力している日本企業の1社が京セラである。同社は2015年9月9日に東京都内で会見を開き、過去に行ったADRに関する実証実験の成果や現在の取り組み、今後の方針について説明した。
京セラは2014年10月〜2015年2月にかけて、横浜市にあるオフィスビルと店舗、家庭の合計25カ所をつなぎ、デマンドレスポンスの要請から実行・実施報告までを自動化する日本初の実証試験を行った(図1)。日本IBM、東急コミュニティーとの共同実証で、通信規格には2013年7月に発表されたADRの国際標準規格「OpenADR2.0 Profile b(OpenADR2.0b)」を使用。OpenADR2.0bに対応していない需要家へは、独自のプロトコルで接続を行っている。
電力会社からDR要請を受けると、京セラが開発したADR用のサーバから需要家のEMSに信号を送り、空調システムなどを自動制御して節電を行うという仕組みだ。DR要請・実行・実施報告の全てを自動化することに成功し、平均してDR要請1回につき1時間のDRで約60kW(キロワット)の電力を削減することができたという。
ADRを実施する場合、節電に協力する需要家への負荷が1つの課題となる。例えばある店舗の空調システムの出力を下げて使用電力を削減しても、室内環境が悪化して店舗の営業に支障が出てしまっては問題だ。京セラは今回の実証実験で需要家となった東京電力管内のあるスーパーでは、ADRによって1時間で17.3kWの空調電力を削減したが、店内の温度変化は1度未満と、営業には影響を与えないレベルに抑えることができたとしている(図2)。
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