原子力発電の新規制基準を疑問視、再稼働禁止の仮処分決定で法制度・規制(1/2 ページ)

滋賀県の住民が大津地方裁判所に求めた高浜発電所3・4号機の再稼働禁止に関する仮処分が3月9日に決定した。福島第一原子力発電所の事故原因が究明されていない現状では、原子力規制委員会による新規制基準に疑問があると裁判所が判断。原子力発電の経済性よりも国民の人格権を重視した。

» 2016年03月11日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 「債務者(関西電力)は、福井県大飯郡高浜町田の浦1において、高浜発電所3号機及び同4号機を運転してはならない。」

 滋賀県の大津地方裁判所(大津地裁)が3月9日に決定した仮処分の内容である。この仮処分は高浜発電所から70キロメートル以内に居住する滋賀県民が債権者(原告)として2015年1月30日に大津地裁に申し立てたものだ。大津地裁は4月から12月にかけて債権者と債務者の立会いのもと、4回にわたる審尋(書面か口頭による陳述)を実施して仮処分を決定した。

 仮処分の決定を受けて、関西電力は稼働中の高浜発電所3号機を3月10日に停止させた(図1)。一方の4号機は2月29日にトラブルが発生して運転を停止している。関西電力は「当社の主張を裁判所に理解いただけず、極めて遺憾であると考えており、到底承服できるものではありません」とコメントを出した。近日中に不服申し立ての手続きを開始して仮処分の取り消しを求める方針だ。

図1 「高浜発電所」の建屋(左)、発電設備の概要(右)。出典:関西電力

 大津地裁が再稼働禁止の仮処分を決定した理由の1つに、原子力規制委員会の「新規制基準」に対する疑念がある。政府は福島第一原子力発電所の事故以前の安全規制を見直すために、環境省の外局として原子力規制委員会を設置して、2013年7月に新しい規制基準を施行した(図2)。

図2 「新規制基準」で新設・強化した項目。出典:原子力規制委員会

 原子力規制委員会は「常に世界最高水準の安全を目指す」ことを基本方針に掲げながら、「新規制基準は原子力施設の設置や運転等の可否を判断するためのものです。しかし、これを満たすことによって絶対的な安全性が確保できるわけではありません。原子力の安全には終わりはなく、常により高いレベルのものを目指し続けていく必要があります」と説明している。

 大津地裁の判断は世界最高水準かどうかに関係なく、現在の新規制基準に問題があることを指摘した。福島第一原子力発電所の事故原因が究明できていない状況では、津波が主な原因と特定することはできない。そのほかの要因を含めて徹底的に究明したうえで、「十二分の余裕をもった基準」を策定して安全対策を実施すべきであると強調している。

 そうした前提で、現在の新規制基準の具体的な問題点をいくつか挙げてみせた。たとえば使用済み燃料を貯蔵するピットの冷却設備が安全性にかかわる重要な施設であるにもかかわらず、耐震性の重要度が低いBクラスに指定されていることを問題視している。使用済み核燃料も高温を発して放射性物質を放出し続けるため、原子炉と同様に最も厳しい基準(Sクラス)が必要であると指摘した。

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