走り出すホンダの燃料電池車、その未来を左右するGMとの提携戦略電気自動車(3/4 ページ)

» 2016年03月11日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

他モデル展開には量産課題のクリアが必須に

 クラリティのFCスタックを33%小型化できた主な理由は2つある。1セル当たりの発電性能を従来比で1.5倍に向上できたため、積層するセル数を30%削減できたという点だ。もう1つはFCセルの小型化で、従来比で厚さを20%削減している。セル数が減った分の電圧は、昇圧コンバータの採用でカバーする仕組みだ(図9)。

図9 FCスタックの改良に向けた取り組みの概要 出典:ホンダ(クリックで拡大)

 八郷氏はこうして改良を重ねてきたFCVのシステムについて「ホンダはFCV開発のリーディングカンパニーであるという自負がある。クラリティ以外にもさまざまな車種展開を考えていきたい」と語る。現時点で具体的な計画を公表しているわけではないが、ホンダは2030年をめどに商品ラインアップにおける販売数の3分の2を、FCV、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動車に置き換える方針だ。その際の販売台数のうちFCVとEVが15%程度を占めると見込んでいる。

 将来の他車種への展開やFCVの促進において必須になるのが、量産化に向けた課題のクリアだ。ホンダは初年度200台のリース販売を目指すクラリティの生産を栃木県高根沢町の拠点で行う計画だが「品質問題にも徹底的に配慮していることもあり、他のガソリンエンジン車のような速度で生産するには程遠い」(ホンダ)という。現在、トヨタのミライも生産能力は1日あたり2〜3台程度と少なく、FCVの量産は共有課題だ。

 量産速度を向上する大きな鍵となるのはFCスタックの部分だという。「多くのセルを積層して生産するFCスタックの生産性はまだまだ低い」(ホンダ)。そして将来的にFCVの多モデル展開を考えた場合「クラリティのFCスタックはホンダのV型6気筒エンジンと同等のサイズ。将来、一般的な車両にも展開していくと考えた場合、さらなる小型化は必須」(同社)となる。

 こうした課題のクリアに向けてホンダが重要視しているのが、2013年に発表したGeneral Motors(GM)との燃料電池車開発における提携だ。水素タンクの他、特にFCスタック部分のさらなる改良や低コスト化にも注力していくという。

ホンダ 執行役員の執行役員の三部敏宏氏

 会見に登壇したホンダの執行役員を務める三部敏宏氏は「GMとの共同開発は燃料電池システム以外の領域についても議論を進めている。ホンダだけではコストが下げられないという認識で、GMとの共同開発の中で価格低減や量産化に向けた取り組みを進めていきたい」と述べている。両社では2020年をめどに共同開発製品の実用化を目指しているが、この成果がホンダの次のFCVの大きな鍵となりそうだ。

 経済産業省が発表したFCV普及ロードマップでは2025年あたりに、FCVの車両価格をハイブリッド車と同等程度にまで低減する方針が掲げられている。ホンダとしてもFCVの本格的な普及の目安として2025年を念頭に置いているようだ。

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