電力の契約変更まもなく100万件を突破、システムの不具合で料金計算に影響も動き出す電力システム改革(62)(2/2 ページ)

» 2016年05月26日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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自由化の進展を妨げるトラブルが続出

 300社を超える小売電気事業者がひしめく新しい電力市場だが、当初から数多くの問題が発生してしまった。監督官庁の資源エネルギー庁が把握しただけでも7件の重大なトラブルが起きている(図4)。1件は東京電力によるスマートメーターの設置遅延で、6件は情報システムの不具合が原因だ。

図4 小売全面自由化に伴って発生したトラブル。出典:資源エネルギー庁

 需要家が電力会社から他の小売電気事業者に契約を変更する場合には、30分単位の電力使用量を自動で計測できるスマートメーターの設置が必要になる。そのデータをもとに小売電気事業者が電気料金を計算するためだ。時間帯別の電気料金プランもスマートメーターが設置されていなければ提供できない。

 スマートメーターは電力会社の送配電部門が設置することになっているが、東京電力だけは設置工事の手配が適切に実行できずに大幅な遅れを生じている。3月末の時点で約31万件も遅れが発生していて、解消できるのは8月になる見込みだ。遅延によって需要家は時間帯別の電気料金プランを利用することができず、小売電気事業者は契約変更をスムーズに進められない状況にある(図5)。

図5 情報システムとスマートメーター(スマメ)のトラブルが与える影響。出典:資源エネルギー庁

 一方のシステムの不具合も本来であれば避けられたはずだが、6件のうち3件は現在も問題を解消できていない。不具合が継続中のシステムは2つある。1つは全国レベルの需要と供給を調整する役割の電力広域的運営推進機関(広域機関)の「広域機関システム」で、もう1つは東京電力の「託送業務システム」だ。

 広域機関システムでは一部の機能が予定どおり4月1日までに開発できなかった。そのために全国の各地域をつなぐ連系線の利用計画を策定できず、卸電力の取引に支障が生じている。ほかにも発電事業者と小売電気事業者から送られてくるデータのチェック機能が正常に機能しないなどの問題があり、電力会社が小売電気事業者に請求する「インバランス料金」(供給量の不足に伴うバックアップ電力の料金)が計算できない状態だ。

 東京電力の託送業務システムでは需要家ごとの月間の電力使用量を確定させる機能に不具合が発生していて、現在のところ解消できるめどは明らかになっていない。この問題によって小売電気事業者が電力会社に支払う託送料金(送配電ネットワークの接続料金)を把握できないばかりか、需要家に対しても料金請求に遅れが出る可能性がある。

 業界のリーディングカンパニーである東京電力に加えて、電力市場の改革を率先して推進する役割の広域機関でもシステムの開発が遅延している問題は極めて重大だ。これから始まるガスの小売全面自由化に続いて、2020年の発送電分離、2022年のガス導管分離を実施するにあたってもシステムの整備は不可欠である。改めてシステム開発力の強化が求められる。

第63回:「節電した電力を売買するネガワット取引、実施スキームが見えてきた」

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