電力の8割を自給自足する先進県、小水力発電と木質バイオマスが活気づくエネルギー列島2016年版(16)長野(4/4 ページ)

» 2016年08月09日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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太陽光発電にも環境影響評価を求める

 長野県では農山村を中心に小水力発電とバイオマス発電が活発になってきた。固定価格買取制度の認定を受けた小水力発電の規模は全国で第2位になり、10万kWを超えている(図13)。このほかに太陽光発電が高原地帯を中心に広がる。

図13 固定価格買取制度の認定設備(2015年11月末時点)

 中部の諏訪市(すわし)では牧草地として利用していた広大な土地に、巨大なメガソーラーを開発するプロジェクトが始まった。太陽光発電事業者のLooopが関東・甲信越で最大級の89MW(メガワット)のメガソーラーを建設する計画だ。およそ100万平方メートルの用地に31万枚の太陽光パネルを設置する(図14)。

図14 「諏訪四賀ソーラー事業」の対象区域(赤枠内)。出典:Looop

 年間の発電量は1億kWhに達する見込みで、実に3万世帯分に相当する電力を供給できる。諏訪市の総世帯数(2万世帯)の1.5倍に匹敵する。5年後の2021年度に運転を開始する予定だが、建設に着手する前に環境影響評価の手続きを実施しなくてはならない。

 長野県では自然環境を守りながら再生可能エネルギーを拡大できるように、2016年1月に「長野県環境影響評価条例」を改正した。従来は県の環境影響評価の対象に含めていなかった水力・風力・地熱・太陽光発電所を新たに追加して、市町村や地元住民と一体になって開発計画をチェックできる体制を整えた(図15)。

図15 「長野県環境影響評価条例」の対象になる発電事業(第2種事業は環境影響評価の必要性を知事が判定)。出典:長野県環境部

 太陽光発電は国の環境影響評価の対象に入っていない。長野県は独自に規制を設けて、敷地面積が50万平方メートル(50ヘクタール)以上の場合に環境影響評価を義務づけることに決めた。諏訪市で開発するLooopのメガソーラーが第1号の案件である。

 現在の開発計画では用地の4割以上を森林や湿原のまま残したうえで、発電設備の周囲に緑地を整備して景観を保つ対策を盛り込んでいる。さらに敷地内に調整池を4カ所に造って、地域の洪水対策にも役立てる。

 同じ諏訪市内ではゴルフ場の跡地を利用した大規模なメガソーラーの建設計画も決まった。米国の太陽光発電事業者であるGSSG Solarが主体になって、126万平方メートルの用地に47MWのメガソーラーを展開する。2017年11月に運転開始を目指しているが、このプロジェクトも環境影響評価の対象になる見通しだ。

 再生可能エネルギーの先進県で始まった自然環境の保護とエネルギーの地産地消を両立させる取り組みに、全国の自治体から注目が集まっている。

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2015年版(16)長野:「電力の自給率70%を突破、木質バイオマスで地産地消が加速する」

2014年版(16)長野:「小水力発電で全国1位をキープ、農業用水路や砂防ダムでも水車を回す」

2013年版(16)長野:「止まらない小水力発電の勢い、2020年にエネルギー自給率77%へ」

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