酸性の水が流れる川を小水力発電に生かす、水車発電機はステンレス製自然エネルギー

長野県の北部にある砂防ダムで小水力発電所が運転を開始した。ダムの直下に設置した水車発電機で750世帯分の電力を供給することができる。このダムを流れる川の水は酸性が強いために、魚が生息しにくく、飲み水や農業にも適さなかった。新たに小水力発電で地域の活性化に貢献する。

» 2015年10月27日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 「高井発電所」は長野県と群馬県の県境にある高山村(たかやまむら)の山中で10月23日に運転を開始した。村を流れる川の土砂災害を防止するために設けた「高井砂防堤堰(ていせき)」を利用する小水力発電所だ。堤堰の上部に穴を開けて、そこから取り込んだ水を水車発電機に送って発電する(図1)。水流の落差は36メートルにもなる。

図1 「高井発電所」の全体イメージ。出典:日本工営

 発電能力は420kW(キロワット)で、年間の発電量は270万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の電力使用量(年間3600kWh)に換算して750世帯分になる。高山村の総世帯数(2400世帯)の3割をカバーすることができる。川を流れる安定した水量を生かして、設備利用率(発電能力に対する発電量の平均値)は73%と高い。

 この川には酸性の強い水が流れているため、通常の発電設備を使うと腐食や摩耗の可能性が大きい。そこで発電所まで水を送り込む水管には、鉄管ではなくてガラス繊維強化プラスチック製を採用した。水車発電機もステンレス製を使って、さびの発生を防いでいる(図2)。

図2 堤堰に設置した取水管(左)、ステンレス製の水車発電機(右)。出典:日本工営

 実際に高井砂防堤堰の下流を見ると、岩が赤茶色に染まっている(図3)。流れる水はph3.1と酸性が強く、腐食などの対策が必要になる目安のph4.0を大きく下回る。というのも、この一帯には火山に由来する天然の硫黄が大量に存在して、1971年まで硫黄を採掘する鉱山が操業していた。硫黄は強い酸性を発揮する。

図3 「高井砂防堰堤」の水流(左、発電所を建設する以前)、堰堤の下流(右)。出典:長野水力

 高山村にとって長年の課題だった酸性水の活用が小水力発電で可能になる。発電事業を進めるにあたって、小水力発電で実績が豊富な日本工営と共同出資会社の「長野水力」を設立した。村の出資比率は2%である。日本工営が発電所の建設資金を提供して、長野水力が建設と運転・維持管理を担当する。発電した電力は固定価格買取制度で売電して、建設資金の回収と村の収入増加につなげる。

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