農地を太陽光発電で再生、能登半島に新たなエネルギーの風が吹くエネルギー列島2016年版(19)石川(1/3 ページ)

石川県の能登半島では農作物の栽培に使われなくなった耕作放棄地の増加が課題になっている。放棄地を集積・整備して農業と太陽光発電で再生させる新たなモデル事業が始まった。冬の寒さが厳しい半島にメガソーラーが広がり、風力発電や木質バイオマス発電のプロジェクトも動き出した。

» 2016年08月30日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 日本海に向けて北に伸びる能登半島のほぼ真ん中に羽咋市(はくいし)がある。山と海に囲まれて、古くから農業が盛んな地域だ。ところが最近は人手不足などから農作物を栽培しない耕作放棄地が増えている。海沿いに広がる「滝地区」が典型的な例で、農地の9割にあたる45万平方メートルが放棄地になってしまった(図1)。

図1 太陽光発電による農地再生の対象地区。出典:JAアグリはくい

 そこで地元のJAはくいが中心になって、県や市も協力して耕作放棄地の再生に乗り出した。放棄地を集積して水田を整備しなおすのと同時に、収入を増やすために土地の一部を活用して太陽光発電を実施する(図2)。このモデルを展開しながら農地の再生とエネルギーの地産地消を推進する計画だ。

図2 太陽光発電を組み合わせた農地再生モデル。出典:農林水産省

 先行して取り組んだ滝地区では、耕作放棄地を集積・整備した3万平方メートルの用地に7800枚の太陽光パネルを設置して2015年12月に発電を開始した(図3)。発電能力は2MW(メガワット)で、年間に196万kWh(キロワット時)の電力を供給できる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して540世帯分に相当する。

図3 耕作放棄地を集積・整備した後の農地と太陽光発電設備。出典:羽咋市

 発電した電力は固定価格買取制度で売電して、年間に約6300万円の収入を見込める。JAはくいのほかに羽咋市も出資して設立した「JAアグリはくい」が発電事業を担当している。JAアグリはくいは農家から田植えや刈り取りなどの農作業も受託して、地域の農業を再生させる推進役になる。そのために太陽光発電による売電収入で経営を安定させる。

 滝地区の太陽光発電設備の建設には6億6500万円を投じた。買取制度の対象になる20年間の売電収入は12億円を超える見通しで、運転維持費を抑制すれば十分な利益を出すことができる。太陽光パネルを設置した場所には農作物は栽培しないで発電だけに利用する方針だ。

 このプロジェクトを通じて滝地区では2016年度に12万平方メートルの農地で稲作を再開した。さらに2017年度には18万平方メートルに拡大する予定だ。太陽光発電を組み合わせた新しい事業モデルで地域の農業を復活させていく。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.