電力の小売システムはコスト重視で、クラウドサービスの利用も電力自由化で勝者になるための条件(24)

新たに電力の小売事業に参入する場合には、システムの構築方法がいろいろある。システムの投資を最小化できるように、安価なクラウドサービスを利用するケースが増えてきた。当初は顧客管理をExcelで簡易的にこなしながら、広域機関のWebシステムを利用する方法もある。

» 2016年11月16日 15時00分 公開

連載第23回:「電力小売システムのあるべき姿を考える、最初から過大な投資は禁物」

 電力小売システムの導入形態や方向性は、従来から高圧部門の小売事業を手がけてきた事業者と、自由化によって低圧部門から新規に参入した事業者で大きく分かれる。

 高圧から始めた事業者はすでに業務の仕組みを構築しており、需給管理や一般電気事業者(電力会社)とのやり取り、顧客管理や料金計算・請求といった業務を経験している。低圧の小売事業を開始するにあたっては、追加で業務フローを組み立てたうえでシステムの導入を検討するパターンが多い。

 一方の新規参入事業者は電力事業のノウハウがない。一定の需要家数を獲得できるまで時間を要することから、当初は投資リスクを最小に抑えたい、と考えるケースが多く見られる。従ってスモールスタートで業務をこなせるように、システムの投資を最小化できるように業務を組み立てる。安価なクラウドサービスを提供しているIT(情報技術)ベンダーにシステムの構築を依頼するケースが増えている(図1)。

図1 新電力(小売電気事業者)に見られるシステム構築パターン(画像をクリックすると拡大)。CIS:顧客情報システム、BG:バランシンググループ

 このほかに大手の小売電気事業者が運営するBG(バランシンググループ)に参加する方法がある。需給管理業務を委託したうえで、顧客管理の仕組みも利用できる。ただし会社の規模や与信の範囲でBGに参加できる事業者を選別するケースが普通である。必ずBGに入れるわけではない。BGに参加できない事業者をサポートする仕組みとして、与信を担保するサービスや電源調達を代行するようなサービスを提供する事業者も現れている。

 BGに参加できたとしても、システムの利用料が高いために、そのコスト負担によって小売事業の採算が取れないケースも発生してきている。BGを選択する場合でもコストや制約などを十分にチェックする必要がある。

 当初に獲得できる需要家数が少ないケースでは、Excelを使って顧客情報を管理して、料金計算まで処理することも可能である。スイッチング(契約変更)の処理などは、電力広域的運営推進機関が提供する標準のWebシステムを利用すればよい。

 電力の小売システムを整備するうえで重要なポイントは、業務を処理する最適な仕組みを低コストで構築することである。投資回収の見込みが確実に立てられない状況では、見栄えの良いシステムを構築しても事業は長続きしない。

連載第25回:「電力市場で顧客を獲得・維持するシステム、WEBやSNSの活用で戦略的に」


著者プロフィール

平松 昌(ひらまつ まさる)

エネルギービジネスコンサルタント/ITコスト削減コンサルタント。外資系コンピュータベンダーやベンチャー事業支援会社、電力会社の情報システム子会社を経て、エネルギービジネスコンサルタントとして活動中。30年間にわたるIT業界の経験を生かしてITコスト削減支援および電力自由化における新電力事業支援を手がける。Blue Ocean Creative Partners代表


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