電力市場で顧客を獲得・維持するシステム、WEBやSNSの活用で戦略的に電力自由化で勝者になるための条件(25)

小売電気事業者が幅広い顧客を獲得するうえでインターネットを活用する方法が効果的である。WEBサイトのランディングページをわかりやすく作ることに加えて、FacebookなどのSNSを使って集客する試みが始まっている。獲得した顧客の離脱を防ぐために継続的なサービスの提供も欠かせない。

» 2016年11月24日 15時00分 公開

連載第24回:「電力の小売システムはコスト重視で、クラウドサービスの利用も」

 家庭を中心とする低圧の小売事業においては、効率的な集客の仕組みと獲得後の需要家の離脱防止が重要である。効率の良い集客方法としては、既存事業の仕組み(店舗や訪問による対面営業など)を活用することが第1に考えられる。しかし幅広い需要家に訴求するためには、コスト面や柔軟性を考慮するとWEBの仕組みは無視できない。

 利用者が最初に訪れるランディングページの整備をはじめ、電気料金の比較サイトとの連携などを含めて、自社のサービスの優位性をWEBサイトでアピールすることは顧客を獲得するうえで効果的である。需要家がWEBサイトにアクセスして契約までこぎつけるには、わかりやすい料金体系とサービスメニューを用意することが不可欠である。

 自由化の直前と直後は、電力の小売自由化に関心が高まるように各事業者が宣伝合戦を繰り広げた。現在でもチラシのポスティングやコールセンターからの電話勧誘、対面営業・店舗営業も組み合わせて、需要家に対する活発なアプローチが展開されている。

 ただし日本人の特性として、最初に機運が盛り上がっている時期はスイッチング(他社への契約切り替え)の意識が高いものの、少し時間がたつと意欲がさめてしまう可能性が大きい。通信業界の自由化でも同様の傾向が見られた。当初の盛り上がりから、いったんスイッチングが落ち着く。そして1年ほど経過したところで、利用者の口コミなども手伝い、再度スイッチングが加速していく状況が想定される。

 従って、継続して需要家にアピールしていくことが必要である。マーケティングコスト面を考えると、いかにWEBサイトに誘導したうえで、定期的にプッシュ型の訴求を実行できるかが、需要家を継続的に増やしていくために重要な要素となる(図1)。

図1 WEBを活用した顧客獲得・維持の仕組み(画像をクリックすると拡大)。CIS:顧客情報システム、HP:ホームページ、SNS:ソーシャルネットワーキングサービス

 わかりやすい料金やサービスを用意することは当然だが、その情報を閲覧してもらうための誘導方法と誘導後のランディングページを工夫する必要がある。電力の硬いイメージを払しょくするために、面白いランディングページを用意してアクセスを増やし、最終的に顧客になってもらうようなアプローチも見られる。

 さらに獲得した顧客の離脱防止策も用意しておく必要がある。継続して利用した場合のポイントや特典を付与する方法が一般的である。複数年以上の利用を前提とした長期割引、期間を限定した定額利用、プリペイドサービス、地域に特化したサービスなどもある。自社グループの既存サービスと組み合わせる方法も有効である。今後は単純な割引だけで数多くの顧客を長く維持することはむずかしい。

 従来の電気料金を主体にした考え方の事業者は、特に低圧の分野では守勢に立たされるだろう。さまざまな業態のプレイヤーが続々と参入している状況にあって、需要家の選択肢はますます増えていく。多数の事業者が需要家に訴求できるサービスを常に企画しながら、WEBやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを駆使した戦略的な集客の仕組みで競争する時期は遠くない。

(連載終了)

連載第1回:「電力市場17兆円をめぐる現状、参入した事業者のチャンスと課題」


著者プロフィール

平松 昌(ひらまつ まさる)

エネルギービジネスコンサルタント/ITコスト削減コンサルタント。外資系コンピュータベンダーやベンチャー事業支援会社、電力会社の情報システム子会社を経て、エネルギービジネスコンサルタントとして活動中。30年間にわたるIT業界の経験を生かしてITコスト削減支援および電力自由化における新電力事業支援を手がける。Blue Ocean Creative Partners代表


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