電力市場17兆円をめぐる現状、参入した事業者のチャンスと課題電力自由化で勝者になるための条件(1)(1/2 ページ)

従来から企業・自治体向けに高圧の電力を販売していた事業者に加えて、家庭を含む小売全面自由化を機に新たに参入する事業者が一気に拡大した。巨大な電力会社に対抗するために小売電気事業者が実施すべきことは何か。勝者になるために必要な戦略と合わせて解説していく。

» 2016年07月13日 11時00分 公開

 電力の小売市場に参入するプレイヤーは2016年6月16日の時点で310事業者になり、まだまだ増加する方向である。2017年4月にはガスの小売全面自由化も始まる。電力とガスを合わせて10兆円にのぼる家庭市場に向けて各社が一斉に動き出した。ただし参入を検討していた企業の中には、制度設計や市場の成り行きを見極めて一旦延期したところもあれば、リスクを取らずに代理店として参入するところもある。

 以前から自由化されていた企業・自治体を対象にした特別高圧・高圧を含めた市場規模は以下の通りだ。新たに家庭を対象にした低圧分野の自由化によって、高圧分野の切り替えが進むことも想定され、需要家の獲得合戦が激しくなっている。

  • 特別高圧(2000kW以上):1万件
  • 高圧(50kW以上2000kW未満):75万件
  • 特別高圧+高圧の市場規模:9.2兆円
  • 低圧(50kW未満):8000万件
  • 低圧の市場規模:8.1兆円

 合わせて17兆円を超える巨大な電力市場の中で、小売電気事業者は大きく3つに分類できる。

1.一般電気事業者(現行の電力会社、2016年4月以降は「みなし小売電気事業者」)

 従来の電力会社は、2017年のガス小売全面自由化をにらみながら、電力市場に新規参入する事業者に対抗する料金メニューを発表し、域外の攻勢も強めている。自社エリアでの需要家の減少を他のエリアで取り返す作戦である。特に原子力発電所の再稼働問題もあり、電気料金が上昇しているエリア、例えば関西エリアなどでは域外からの攻勢が激しくなっている。自社グループ・他業態との提携によるセット販売モデルやポイント付与、あるいは電気トラブルなどのサービス強化を通じて対策を打っているように見えるが、防衛策として強力とは言いがたく、戦略的に悩やんでいる状況ではないだろうか。

2.従来から高圧分野で電力の小売に取り組んできた事業者

 高圧分野の小売事業は2000年3月から特別高圧(2000kW以上)、2004年4月から高圧大口(500kW以上)、2005年4月から高圧小口(50kW以上)の順に自由化が進んできた。ただし供給力の問題もあり、従来の電力会社が現在でも圧倒的なシェアを保持している。電力会社以外のシェアは2015年9月度の時点で8%程度である(図1)。高圧分野だけを継続する一部の事業者を除き、電力事業のノウハウを生かして低圧分野の事業も展開しようとする会社が多い。

図1 高圧分野の上位10社のシェア(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

3.小売全面自由化で新規に参入した事業者

 新規参入組はガス会社をはじめとして、さまざまな業態からの参入が見られる。電源を保有している都市ガス、石油、商社、鉄鋼、製紙といった業種に加えて、流通、自動車、電鉄、ハウスメーカー、ケーブルテレビ、通信・携帯電話、プロバイダー、旅行会社、地域電力会社など多彩である。まだまだ他業種から参入する企業は増加すると想定される。

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