電力小売システムのあるべき姿を考える、最初から過大な投資は禁物電力自由化で勝者になるための条件(23)

IT(情報技術)を駆使したシステムをどのように構築していくのか。小売電気事業者にとっては事業の成否を左右する重要な選択である。電力の小売システムは特殊なものではなく、ベンダーによる違いはさほど大きくない。将来の改修費用も含めて投資の回収を見込むことが重要である。

» 2016年11月09日 15時00分 公開

連載第22回:「電力小売システムはコストに大きな違い、ITベンダーから導入する場合の注意点」

 小売電気事業者にコンサルティングサービスを提供する中で、業務全体をどのように組み立てるのが良いのかという相談を多く受ける。業務の処理件数が多くなると、当然システム化が必要となる。

 業務の効率化、正確性の向上、オペレーションコストの削減、といった観点からもシステムで対処したいところである。特に高圧の小売事業において軽視できない点は、見積システムの整備である。収益に大きな影響を及ぼすので重点を置きたい。

 しかしながら需要家を獲得するスピードとの関連で、最初からシステムの投資を大きくしてしまうと回収のリスクが増大する。当初の業務量が少ない場合には、Excelなどを利用した軽いシステムでも対応できる。

 最初から数十万件以上の需要家を獲得することが見込めないケースでは、小さく始めるのが望ましい。一定の規模の需要家を獲得できた時点で本格的なシステムを導入する、あるいは改修して機能を拡充する、といったアプローチが安全である(図1)。

図1 電力小売システムのあるべき姿(画像をクリックすると拡大)

 電力の小売に必要な顧客管理システムにおいては、電力特有の設備情報を除けば特殊な点はほとんどない。電力広域的運営推進機関のスイッチング支援システムと連携する必要があるが、仕様が公開されているため、どのベンダーが構築しても大差はない。ただし制度の変更に伴って、スイッチング支援システムの仕様が変わる場合がある。ベンダー側の継続したサポート体制が欠かせない。

 画面などの使い勝手にはベンダーによって多少の差はあるものの、対応できる業務に変わりはない。あとはコストを中心に比較することになるが、制度変更や事業戦略の転換などに伴う改修コストは要チェックである。たとえ定常的な利用料金が安くても、カスタマイズなど初期の一時費用や将来の改修費用が高いようでは、事業の採算性に影響が出てしまう。

 顧客管理とともに必要な需給管理システムでは、今後の卸電力市場における先物取引などの導入によって影響を受ける可能性が大きい。当面はBG(バランシンググループ)に入るか、外部に業務を委託する、といった方法でシステム投資を回避する選択肢もある。とはいえ中長期に電力事業を継続するのであれば、いずれは需給管理の業務を自社で運用すべきで、システムの構築は不可欠となる。

連載第24回:「電力の小売システムはコスト重視で、クラウドサービスの利用も」


著者プロフィール

平松 昌(ひらまつ まさる)

エネルギービジネスコンサルタント/ITコスト削減コンサルタント。外資系コンピュータベンダーやベンチャー事業支援会社、電力会社の情報システム子会社を経て、エネルギービジネスコンサルタントとして活動中。30年間にわたるIT業界の経験を生かしてITコスト削減支援および電力自由化における新電力事業支援を手がける。Blue Ocean Creative Partners代表


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