海水と下水でCO2フリー水素を製造、福岡市で実証開始自然エネルギー

福岡市で新しい水素製造システムの実証が始まった。山口大学、正興電機製作所、日本下水道事業団の3者が取り組む実証で、原料として利用するのは下水処理水と海水だ。下水処理場を活用した新しいCO2フリー水素製造システムとして期待が掛かる。

» 2016年12月12日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 山口大学、正興電機製作所、日本下水道事業団の3者は2016年12月6日、共同で「下⽔処理⽔と海⽔の塩分濃度差を利⽤した⽔素製造システムの実⽤化に関する調査事業」を開始したと発表した。国土交通省が実施する平成28年度「B-DASHプロジェクト」の予備調査に採択されたもので、2017年3月31日まで実施する。

 この水素製造システムの核となるのが、下水と塩分濃度差を利用する発電システムである。海⽔からの⾷塩製造や醤油の脱塩などで既に実用化されている電気透析という技術を応用。イオン交換膜を利用し、海水と下水処理水を入れた時に塩分濃度の高い場所から低い場所にイオンが移動する際に生まれる電力を活用する。この電力を利用し、電極部分で水素を製造する仕組みだ(図1)。

図1 塩分濃度差発電を利用した水素製造システムのイメージ(クリックで拡大)出典:正興電機製作所

 このシステムでは水素の他、酸素も得られる。下水処理水の高い水温を活用することで、発電出力および水素製造量の増加も見込めるという。最近では下水処理所の消化工程で得られるメタンガスを活用した水素製造の実証も進んでいる。一方、塩分濃度差を利用したシステムであれば、こうした消化工程を持たない下水処理場であっても、海水さえ容易に取得できれば、水素製造が可能になるメリットもあるとしている(図2)。

図2 下水処理場への導入イメージ(クリックで拡大)出典:国土交通省

 今回の調査事業では福岡市内の実証施設を活用し、塩分濃度差を利⽤した⽔素製造技術による⽔素発⽣量、⽔素純度などの技術的な性能について検証していく計画だ。なお、調査の実施にあたり、福岡市および福岡地区⽔道企業団から下⽔処理⽔と濃縮海⽔の提供を受ける。

 下水処理場は一般にエネルギー消費地が近く、製造した水素の輸送コストを抑えられるメリットもある。共同研究グループではこの水素製造システムを、2030年までに実用化したい考えだ。

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