最長の寿命、大容量化できる有機物蓄電池蓄電・発電機器(2/4 ページ)

» 2017年02月23日 15時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

レドックスフロー電池の仕組み

 レドックスフロー電池の構造を図A-1に示す。左のタンクには負極側の電解質が蓄えられており、右のタンクには正極側の電解質が充填されている。

 充電時には外部(図上)から電流が流れ込み、中心に描かれた「セル」の左右の端にある負極と正極(濃い青と濃い赤)を通じて、電解質に電荷を受け渡す。ハート形で示した位置には、左右の溶液が混ざらないような膜が必要だ。

図A-1 レドックスフロー電池の模式図 左右のタンクに充放電用の溶液を格納する。図下の丸印は溶液循環用のポンプ 出典:本誌が作成

電池需要が急拡大したときには有機物が適する

 ハーバード大の研究チームの問題意識は、電力を蓄える電解質を改善できないかというものだ。

 現在のレドックスフロー電池は、バナジウムや亜鉛、鉄などの金属イオンを用い、イオンの価数の変化を利用して電力を蓄えている。

 最も優れているのはバナジウムイオンを使うタイプだ。既に10メガワット(数十メガワット時)を超えるシステムが導入されており、性能も申し分ない*4)

 ただし、DOEが考えるような非常に大規模な普及を考えたとき、課題がある。資源量だ。

 資源としてアクセス可能な範囲に存在する元素の比率を数え上げると(クラーク数)、バナジウムは第23位に位置する。ジルコニウムやクロム、ストロンチウム、ニッケル、銅といった元素と同程度だ。元素の総量としては問題が少ない。

 問題なのは鉱山の分布に偏りがあること。2013年時点の生産量(7万4000トン)は中国(52.7%)を筆頭にロシア、南アフリカ共和国の3カ国で全世界の99.4%に達する。埋蔵量でも同様に97.1%だ。

 再生可能エネルギー由来の電力を蓄える需要が急拡大したとき、極めて大量のバナジウムが必要となり、価格が急上昇する可能性があるという。

 バナジウム以外の金属には材料コストや腐食、反応速度、溶解度、エネルギー効率などに課題があるとした。

 そこで、炭素や水素、窒素といったありふれた物質から作り出した有機物、金属として資源量に限界がない鉄を用いたレドックスフロー電池の研究を進めた。

*4) 国内では住友電気工業が産業用に大規模なレドックスフロー電池を販売している。北海道電力における実証実験では15MWの出力(入力)を4時間維持できる装置を用いている。

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