最長の寿命、大容量化できる有機物蓄電池蓄電・発電機器(4/4 ページ)

» 2017年02月23日 15時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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そもそも水に溶けない

 次は正極側に適した分子の探索だ。フェロセンは理想的な分子だが、問題があった。水に全く溶けないのだ。

 そこで、ビオロゲンの安定性を高めるために用いた手法を応用、ビオロゲンと全く同じBTMAP官能基を2つフェロセンに付加した(図3)。溶解度は同じく2M/lと高い。

 米MITでGene and Tracy Sykes Professor of Materials and Energy Technologiesを務めるMichael Aziz氏は発表資料の中で次のように語っている。「水溶性フェロセンはレドックスフロー電池に用いる分子としては全く新しいカテゴリーになる」。

 BTMAPには他の利点もあった。図A-1に示した陰イオン交換膜は、ビオロゲン誘導体とフェロセン誘導体を分離し、塩化物イオン(Cl)だけを通さなければならない。左右の誘導体が混合すると、性能が低下するからだ。

 BTMAPを追加することで、電極と誘導体の電荷のやり取りにはあまり悪影響を与えず、陰イオン交換膜を誘導体が通過する頻度(クロスオーバー速度)を引き下げることに成功した。

図3 フェロセン分子(左)と官能基を付加した誘導体 ビオロゲンと同じBTMAPを付加した。電子を放出すると2つのベンゼン環ニはさまれた鉄がFeIIIに変化、受け取ると再びFeIIに戻る 出典:米ハーバード大学

有機物採用レドックスフロー電池の実用化へ

 風力発電や太陽光発電に由来する電力を大規模に蓄電し、ある程度の時間維持し、必要に応じて外部に供給するには大型で寿命が長く、低コストな電池が必要だ。重量やエネルギー密度よりもこれらの性質が優先される。

 ハーバード大学の研究チームは、同大学のOTD(Office of Technology Development)の支援を受けて、複数の企業と産業化に向けて協業中だ。今回の研究を応用した実用電池に期待がかかる。

【修正履歴】 記事の掲載当初、本文p.4の第5段落で「陰イオン交換膜を塩化物イオンが通過する頻度」としておりましたが、これは「陰イオン交換膜を誘導体が通過する頻度」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事はすでに訂正済みです(2017年4月4日)。



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