次は正極側に適した分子の探索だ。フェロセンは理想的な分子だが、問題があった。水に全く溶けないのだ。
そこで、ビオロゲンの安定性を高めるために用いた手法を応用、ビオロゲンと全く同じBTMAP官能基を2つフェロセンに付加した(図3)。溶解度は同じく2M/lと高い。
米MITでGene and Tracy Sykes Professor of Materials and Energy Technologiesを務めるMichael Aziz氏は発表資料の中で次のように語っている。「水溶性フェロセンはレドックスフロー電池に用いる分子としては全く新しいカテゴリーになる」。
BTMAPには他の利点もあった。図A-1に示した陰イオン交換膜は、ビオロゲン誘導体とフェロセン誘導体を分離し、塩化物イオン(Cl−)だけを通さなければならない。左右の誘導体が混合すると、性能が低下するからだ。
BTMAPを追加することで、電極と誘導体の電荷のやり取りにはあまり悪影響を与えず、陰イオン交換膜を誘導体が通過する頻度(クロスオーバー速度)を引き下げることに成功した。
風力発電や太陽光発電に由来する電力を大規模に蓄電し、ある程度の時間維持し、必要に応じて外部に供給するには大型で寿命が長く、低コストな電池が必要だ。重量やエネルギー密度よりもこれらの性質が優先される。
ハーバード大学の研究チームは、同大学のOTD(Office of Technology Development)の支援を受けて、複数の企業と産業化に向けて協業中だ。今回の研究を応用した実用電池に期待がかかる。
【修正履歴】 記事の掲載当初、本文p.4の第5段落で「陰イオン交換膜を塩化物イオンが通過する頻度」としておりましたが、これは「陰イオン交換膜を誘導体が通過する頻度」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。上記記事はすでに訂正済みです(2017年4月4日)。
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