全世界で再生可能エネルギーを65%に、温度上昇2℃未満に抑える自然エネルギー(2/2 ページ)

» 2017年03月23日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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太陽光・風力の発電コストは火力よりも低く

 OECD/IEAが提案する「66% 2℃ Scenario」では、パリ合意による各国の公約と比べて風力発電と太陽光発電の導入量を2倍に拡大させる(図5)。原子力発電も増やすが、2050年の時点では風力や太陽光の3分の1以下にとどめる。一方でCCSの機能がない火力発電を減らし、特に石炭火力は2050年までに全廃させる方針だ。

図5 主要な電源の発電規模(66% 2℃ Scenarioの場合、画像をクリックすると拡大)。左上から右下へ順に、風力、原子力、ガス火力(CCSなし)、太陽光、火力(CCSあり)、石炭火力(CCSなし)。CCS:CO2回収・貯留。単位:100万キロワット。出典:OECD/IEA、IRENA

 こうした電源構成の転換の背景には長期的な発電コストの変化がある。2015年の時点では太陽光・陸上風力よりもガス・石炭火力のほうが発電コストは低いものの、2030年には形勢が逆転する。石炭火力は燃料費だけならば低コストだが、各国で導入が見込まれる炭素税が上乗せされると太陽光の2倍以上の発電コストになる見通しだ(図6)。

図6 主要な電源の発電コスト(画像をクリックすると拡大)。左から順に、太陽光(事業用)、陸上風力、ガス火力(複合発電)、石炭火力(超臨界圧)。ガスと石炭は燃料と炭素税の合計。単位:米ドル/1000キロワット時(約0.1円/キロワット時)出典:OECD/IEA、IRENA

 全世界の発電量は2050年まで増え続ける。ただし「66% 2℃ Scenario」を実現するためには、2015年をピークに火力の発電量を低減させることが不可欠になる(図7)。今すぐ各国が対策に着手する必要があり、日本も対応を迫られる。最大の課題は石炭火力の縮小だ。

図7 全世界の年間発電量(66% 2℃ Scenarioの場合、画像をクリックすると拡大)。電源の種別は下から順に、ガス火力、ガス火力+CCS、石炭火力+CCS、石炭火力、石油火力、原子力、水力、太陽光、風力、その他の再生可能エネルギー。単位:1兆キロワット時。出典:OECD/IEA、IRENA

 電力のほかに産業用の熱利用や自動車など輸送機器の燃料を加えると、パリ合意の目標と「66% 2℃ Scenario」のあいだには化石燃料の消費量に大きな開きがある。1次エネルギーの需要で比較すると、パリ合意の目標では化石燃料が2050年まで増加する。これに対して「66% 2℃ Scenario」では石炭と石油を大幅に削減する一方、バイオ燃料を含めて再生可能エネルギーの導入量を2倍以上に拡大させる(図8)。

図8 全世界の1次エネルギー需要予測(画像をクリックすると拡大)。「New Policies Scenario」(左)、「66% 2℃ Scenario」(右)。1次エネルギーの種別は下から順に、石炭、石油、ガス、原子力、水力、バイオマス、その他の再生可能エネルギー。単位:100万トン(石油換算)。出典:OECD/IEA、IRENA

 世界の先進国と開発途上国の双方が「66% 2℃ Scenario」に合わせて施策を実行すれば、化石燃料から再生可能エネルギーへ抜本的な構造転換が進んでいく。日本でも環境省が「長期低炭素ビジョン」を策定して、2050年までにCO2排出量を80%削減する方向性を示している。

 ところが産業界を主管する経済産業省の対応に遅れが目立ち、エネルギーの構造転換は他国ほど進んでいない。このままでは世界の潮流に取り残されて、日本の産業界の国際競争力が低下していく。「66% 2℃ Scenario」に基づくエネルギー戦略を早急に策定して実行に移すことが望まれる。

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