東京大学と理化学研究所の研究グループは、元の5倍の長さに伸ばしても「世界最高」の導電率を示す伸縮性導体の開発に成功した。高い伸縮性が求められるスポーツウェア型のウェアラブル端末、ロボットに人間のような皮膚機能を持たせる上で必要不可欠な技術といえる。
職人の動きを正確に読み取ったり、ロボットに人間のような皮膚機能を持たせたりすることが可能になる――。東京大学と理化学研究所の研究グループは2017年5月16日、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業において、元の5倍の長さに伸ばしても「世界最高」の導電率を示す伸縮性導体の開発に成功したと発表した。
ゴムにマイクロメートル寸法の銀フレークを混ぜるだけで、ナノメートル寸法の銀の粒子がゴムの中に均一に自然発生する現象も発見したという(詳細は後述)。
印刷できる伸縮性導体は、高い伸縮性が要求されるスポーツウェア型のウェアラブル端末、ロボットの人工皮膚を実現する上で必要不可欠な技術である。従来は伸長させると導電率が大幅に減少するという課題があったが、発見した新しい現象により解決可能だ。今後はヘルスケアや人工触覚など、さまざまな分野に応用が期待できるとした。
同研究グループは2015年6月に元の長さの3倍以上伸長しても電気を流す、印刷可能な伸縮性導体を作製したことを発表している。半導体プロセス技術では難しい繊維素材の上に伸縮性の配線や電極をプリントし、テキスタイル型センサーも実現した。
しかしセンサーの高精度化や低消費電力化を図るには高い伸縮性を維持したまま、さらに導電性を向上する技術が求められていた。2015年に発表した伸縮性導体の導電率は、元の長さの3倍に伸ばした状態で192S/cm。今回発表したものは同じ条件で、1070S/cmという高い導電率を維持することが示された。約5.5倍の改善となる。
伸長前の状態では4972S/cm、元の長さの5倍に伸ばしても935S/cmという高い導電率が得られた。いずれも印刷で作製する伸縮性導体として「世界最高値」という。
伸縮性導体ペーストは、マイクロメートル寸法の銀フレーク粉と、フッ素ゴム、フッ素界面活性剤を混ぜるだけで作製できる。ペースト状の材料を印刷することで、ゴムやテキスタイルにさまざまな配線パターンを容易に形成可能とした*)。
*)研究グループによると、ステンシルマスク印刷やスクリーン印刷により配線パターンを形成可能。印刷したい形状に孔の開いたマスクを合わせ、粘性のあるインクをスキージで押し付けて任意の形状にインクを印刷する手法である。インクジェット印刷などと比較して、高いスループットで印刷対象を選ばずに印刷できることに特徴を持つという。
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