水素を東南アジアから日本へ、海を越える水素サプライチェーン実証が始まるエネルギー管理

海を越え、海外と連携する水素サプライチェーンの構築に向けた実証が本格的に始まった。千代田化工建設、三菱商事、三井物産、日本郵船は、NEDOプロジェクトで東南アジアのブルネイで製造した水素を、日本に輸送して利用する実証事業をスタート。世界に先駆け、国をまたいだ水素サプライチェーンの実現を目指す。

» 2017年07月28日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 次世代エネルギーとして期待されている水素を、海外から日本へ輸送するプロジェクトが本格的に始動する。千代田化工建設、三菱商事、三井物産、日本郵船は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで東南アジアのブルネイ・ダルサラーム(ブルネイ)から水素を海上輸送し、日本国内の需要家に供給する実証事業を開始した。世界に先駆け、2020年をめどに海を越えた水素サプライチェーンを構築する考えだ。

 NEDOは海外の未利用資源を活用した水素の製造・貯蔵・輸送、さらには国内における水素エネルギーの利用までを含むサプライチェーンの構築を目的に、2015年度から「水素社会構築技術開発事業/大規模水素エネルギー利用技術開発」を実施している。今回のプロジェクトもその一環で、2015年度から2年間かけて必要な技術の検証を進めてきた。

 実証ではブルネイのBrunei LNGの天然ガス液化プラントで発生するガスを利用し、新たに建設するプラントで水蒸気改質を行い、水素を製造。これを海上輸送して、日本に運ぶ計画だ。

 水素サプライチェーンの構築において、課題として挙げられるのが水素の輸送コストだ。水素の貯留や輸送を行いやすくするためには700気圧程度で圧縮する、もしくは−252.9度に冷却して液体にする必要がある。しかし、これではコストが掛かるため、常温常圧で輸送できる技術や手法の開発が期待されている。

 今回の実証ではブルネイで製造した水素を、千代田化工建設が開発した「SPERA水素技術」という技術を利用して、運搬しやすくする。SPERA水素技術は有機ケミカルハイドライド法の1つで、水素とトルエンを化学反応させ、MCH(メチルシクロヘキサン)という常温常圧で液体の物質に変換する。これにより、常温常圧での輸送が可能になる。トルエンは工業用原料として大量に使われている物質で、入手しやすく、工業上の取り扱い方法が確立しているという利点もある。

「SPERA水素技術」のイメージ 出典:NEDO

 水素をMCHに変換し、日本に輸送した後は、脱水素触媒を利用して水素を取り出す。実証では、川崎市臨海部に脱水素プラントを建設する計画だ。取り出した水素は、同じく川崎市臨海部にある昭和シェル石油グループの東亜石油「京浜製油所」で、火力発電設備の燃料などに利用する。1年間で最大210万tの水素を供給する計画だ。燃料電池車4万台をフル充填(てん)できる水素量である。

 ブルネイの水素化プラント、川崎市臨海部の脱水素プラントの建設は2017年8月から開始し、2019年12月までに完成させる。その後、2020年1月〜12月の約1年にわたって、ブルネイから日本への水素の輸送と供給を実施する計画だ。なお、千代田化工建設、三菱商事、三井物産、日本郵船の4社は、今回の実証事業に本格的に取り組むため、「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD:Advanced Hydrogen Energy Chain Association for Technology Development)」を設立した。

ブルネイの水素製造・水素化プラント(左)と川崎市臨海部に建設する脱水素プラントの完成イメージ(右) 出典:NEDO

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