経産省が語る「スマート保安」の重要性、“稼ぐ力”の後押しにもIT活用(1/2 ページ)

経済産業省は2017年7月に「スマート保安セミナー」を開催した。国内ではプラントの老朽化が進む一方、ベテラン技術者の不足が懸念されている。そこでIoTなどの先進技術を活用する「スマート保安」が重要視されつつある。セミナーではスマート保安の意義やポイント、導入事例が紹介された。

» 2017年08月17日 07時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 経済産業省は2017年7月31日に東京都内で「スマート保安セミナー」を開催し、IoT技術などを活用したスマート保安の活用事例やサプライチェーンにおける産業保安の重要性を紹介した。

 現在、国内の多くのプラントで設備更新の遅れや老朽化が顕在化している。加えて、保守・保全管理の実務を担ってきたベテラン従業員が引退の時期を迎えつつあり、人手不足や技術継承も大きな課題だ。そうした中で、安全性・生産性の維持向上を両立していく手段として、IoTなどの先進技術を活用した「スマート保安」が重要視されつつある。経済産業省では、IoTを活用した「スマート保安」に取り組む事業者を支援するため、高圧ガス保安法上の「スーパー認定事業所」制度、LPガス保安法上の「ゴールド保安認定事業者」制度など、優遇措置施策を推進している。

「スマート保安」に利用される(クリックで拡大) 出典:経済産業省「スマート保安先行事例集」より抜粋

 今回のセミナーでは、石油精製、石油化学、一般化学、電力、鉄鋼業などのプラントを有する事業者を対象に、IoTをはじめとする新技術の活用メリットおよび成功要因などを紹介した。

 セミナーの冒頭、経済産業省大臣政務官の大串正樹氏は「産業構造や経済活動が大きな変革期を迎えている中で、プラントや工場などの安全性を担保する産業保安政策も進化する必要がある。スマート保安は、安全性の向上とともに維持・修繕コストの削減や、品質振れ幅の解消などを通じて生産性の向上につながるという事業者の事例も増えてきた。こうした事例が全国に広がることが望まれる」などとあいさつした。

後藤氏

 続いて「IoT技術等を活用したスマート保安の実現に向けて」をテーマに、経済産業省 商務情報政策局 産業保安グループ保安課長の後藤雄三氏が講演した。近年、産業事故やそれに伴う死傷者は減少している。一方、重大事故は随時発生しており、その状況や要因は、多様で複雑なものとなっている。加えて、先述したように国内ではプラントの老朽化が進むと同時に、ノウハウを持つベテラン人材の不足が加速すると見られており、それに伴い重大事故のリスクは今後増大する可能性も出てきた。

 後藤氏は「こうした状況の中で、安全を担保していくには新しい技術を取り入れながら企業の自主保安力を高めていくことが必要。そうした取り組みは企業の“稼ぐ力”の向上にもつながる。これがスマート保安の普及を促す理由」と述べた。また、スマート保安の定義として「リスクや企業の保安力に応じた『賢い』安全規制により、少ない国民コストで『ナショナル・ミニマムとしての安全』を確保することにとどまらず、IoT・ビッグデータ・AIなどの新技術も活用し、事業者の保安力を向上させることで安全性と生産性両方の向上を図ること」と述べる。

 経産省ではこれまで、産業保安法令全体の見直しや「スーパー認定事業所」など、産業保安の各分野でスマート保安を促進するインセンティブ制度の創設に取り組んできた。後藤氏は「マーケットの中で保安力が評価されるなど、投資をしている企業がメリットを得られる仕組みを考えていきたい」と述べる。

 今後は技術の進歩、インターネット取引の普及、市場環境の変化などを踏まえて、新たな安全対策の導入や制度の見直しを行う方針だ。さらに、IoT、ビッグデータなどを活用した保安の高度化、合理化を進め、事業者の適切な保安投資につながるよう保険など市場メカニズム活用した仕組みを構築していく。加えて、高い保安力を経済価値に変えることで、保安投資の促進と競争力強化を図り、国際ルールでの主導的役割やインフラシステム輸出など海外展開を推進する方針だ。

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