太陽光の利用効率を2倍に、実用的な人工光合成につながる成果:蓄電・発電機器
九州大学の研究グループが、これまで利用できなかった近赤外光を利用して、水から水素を発生させることに成功。実用可能な人工光合成システムへの応用が期待される成果だという。
九州大学の研究グループは2017年10月27日、非常に低エネルギーな近赤外光を用いて、水から水素を発生させることに成功したと発表した。世界初の成果としており、実用可能な人工光合成システムへの応用が期待される成果だという。
近年、太陽光を利用した水からの水素製造技術が注目されている。しかしながらこれまでのモデルでは、波長が600nm(ナノメートル)までの可視光領域しか利用することができず、十分に太陽光のエネルギーを活用できていなかった。
研究グループは今回、分子内に3つのルテニウム中心を含有する金属錯体を光捕集分子として採用し、近赤外光を用いた水素発生反応に世界で初めて成功。これは従来モデルと比較して、約2倍の太陽光エネルギーを利用可能にしたことになるという。植物などによる天然の光合成でも利用が難しい長波長域の光を、人工分子システムで初めて利用可能にしたことから、今後の実用可能な人工光合成システムへの応用できるとしている。
ルテニウム三核錯体が近赤外光によって水素生成を駆動している模式図 出典:九州大学
なお、今回の成果はドイツの学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に2017年10月16日に掲載された。確定版は近日中に掲載される予定としている。
- 夢のクリーンエネルギー「人工光合成」とは
地球温暖化など環境負荷の大きな二酸化炭素を吸収しつつ、エネルギーを生み出し、さらに有害物質を排出しないというクリーンエネルギーの生成を実現する「人工光合成」。“人類の夢”ともされた技術だが、2020〜2030年には現実のものとして実現する可能性が見え始めている。
- 植物を超えたか「人工光合成」、太陽電池技術も使う
東芝は2014年12月、人工光合成の世界記録を更新したと発表した。太陽光のエネルギーのうち、1.5%を化学エネルギーに転換できたという。これまでの世界記録を1桁上回る成果だ。火力発電所の排出する二酸化炭素を分離回収する技術と、今回の成果を組み合わせることが目標だという。
- 「人工光合成ハウス」実現へ、CO2を消費してエネルギー完全自給
太陽光エネルギーを利用し、CO2を新たな燃料に変換する人工光合成技術。地球温暖化対策や新しいエネルギー利用の手法として注目が集まるこの技術を、住宅に応用する注目の実証実験が沖縄で始まる。太陽光エネルギーを利用してCO2と水から水素の燃料となるギ酸を生成・貯留する。ギ酸から水素を生み出し、住宅のエネルギーとして利用するという。
- 太陽エネルギーで水素を作る「人工光合成」、2022年に実証試験へ
エネルギーに関する技術開発の将来計画を政府がロードマップにまとめた。2050年を目標に「高効率石炭火力発電」から「メタンハイドレート」まで19分野の施策を集約した。注目すべきは太陽エネルギーで水素を製造する「人工光合成」で、実用化に向けた実証試験を2022年に始める計画だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.