夢のクリーンエネルギー「人工光合成」とはキーワード解説

地球温暖化など環境負荷の大きな二酸化炭素を吸収しつつ、エネルギーを生み出し、さらに有害物質を排出しないというクリーンエネルギーの生成を実現する「人工光合成」。“人類の夢”ともされた技術だが、2020〜2030年には現実のものとして実現する可能性が見え始めている。

» 2015年07月17日 15時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 人工光合成とは、文字通り人工的に植物の光合成と同じ現象を発生させる技術である。光合成は、植物の生命活動に利用されている現象で、太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から炭水化物などの有機化合物を作り出すというもの。同様の現象を人工で発生させることができれば、地球温暖化の大きな要因であるCO2の減少に貢献するだけでなく、有害物や環境負荷の高い物質を排出しない新たなクリーンエネルギーとなることから高い関心を集めている。

日本が技術的な優位性を持つ人工光合成

 世界的な関心も高いが、人工光合成が特に日本で注目されているのは、日本が技術的な優位性を持つ分野であるからだ。人工光合成は現状では、1つのシステムで実現できてはおらず、光触媒などを利用して水(H2O)に太陽光を当て、酸素(O2)と水素(H2)に分解する。そして、この水素(H2)を二酸化炭素(CO2)と合成することで、エネルギー源となり得る有機化合物を生成するという流れだ。

 日本はこの光触媒技術で世界に先行している。水分解光触媒における日本の研究開発の歴史は古く、1970〜1980年代には、酸化チタンに紫外光を照射することで水分解が可能であることを世界で初めて発見(本多・藤嶋効果)。その後、2000年代に入り可視光吸収型光触媒が発見され、多くの研究開発が進むようになった。

 人工光合成としては、2011年に豊田中央研究所が、二酸化炭素と水からギ酸(HCOOH)を合成することに成功した(関連記事)他、2012〜2013年にはパナソニックがギ酸やメタンを生成するシステムを公開している。さらに東芝は2014年12月に人工光合成において、太陽エネルギー変換効率1.5%を実現したとしている(関連記事)。また2015年3月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が、人工光合成技術で世界最高レベルとなる太陽エネルギー変換効率である2%を達成したことを発表した(関連記事)。

低い変換効率が最大の課題

 人工光合成の最大の課題は、低い太陽エネルギー変換効率だ。既に植物と比較すると技術レベルは、変換効率は植物を超えたといえる。しかし、生命活動だけに利用する植物とは違い、産業として活用していくためには、さらに高い変換効率が必要になる(図1)。

photo 図1:光触媒の太陽エネルギー変換効率(クリックで拡大)※出典:NEDO

 太陽エネルギーを活用し、水を分解し、二酸化炭素と合成するという技術だけを考えれば、太陽光発電を利用し、その電力で水を電気分解するという方法も取れる。また現状だけを見れば、こちらの手法の方がエネルギー変換効率も高い。しかし、人工光合成の研究開発を進めるのは「2つの理由がある」とARPChemの三菱化学 執行役員・フェローである瀬戸山亨氏は述べる。

 「1つの理由は、太陽光発電と電気分解設備を利用する仕組みでは、電気分解設備の初期コストが高くなり、導入への負担が大きくなる。理論上では人工光合成の方が低価格で実現でき、そのため将来的に産業で活用しやすい。そしてもう1つの理由は、人工光合成は日本が世界に技術面で勝てる領域だということ。太陽光発電や電気分解はある程度確立された技術で、日本の技術的な優位性はそれほどない。しかし、光触媒や人工光合成は日本が技術的にも強い領域で、将来的な産業化の中で優位性を生み出すことができる」(瀬戸山氏)。

 NEDOでは、2021年度までに人工光合成技術で、太陽エネルギー変換効率10%を目指すとともに、最終的には基幹化学品製造基盤技術の確立を目指すとしている。パナソニックなども2020年以降に光触媒水素生成デバイスの実用化に向けた研究開発が本格化するとしており、2020年代には実用化に向けた取り組みが本格化してくるものとみられている。

photo 図2:NEDOの人工光合成の研究開発スケジュールと目標(クリックで拡大)※出典:NEDO

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