小型風力のFIT価格は撤廃へ、「FITからの自立は困難ではないか」自然エネルギー(1/2 ページ)

FIT価格が55円/kWhと高額な小型風力。政府はこの小型風力のFIT価格を撤廃し、20kW以上の風力と同じ区分にする方針を示した。

» 2018年01月23日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 2017年1月19日に開催された資源エネルギー庁の調達価格算定委員会で、「再生可能エネルギーの固定買取価格制度(FIT)」に基づく、風力発電の今後の調達価格について討議が行われた。現状、55円/kWh(キロワット時)と他電源より高額なFIT価格が適用されている20kW(キロワット)未満の小型風力は、2018年度からこの価格区分そのものが撤廃される公算が大きくなった。加えて、今度の導入拡大が期待される洋上風力については、入札制度を導入する方針が示されている。

 風力発電のFIT価格は、陸上・洋上ともに既に2019年度まで決まっている。陸上は2018年度が20円、2019年度は19円(リプレースはそれぞれ17円、16円)、洋上風力については2019年度まで36円が適用される。ただし、20kW未満の小型風力については、普及状況に即した最適な価格を決めるため、1年ごとに討議を行うことになっている。

 FIT価格を決める際の根拠となるのが、コストと設備利用率だ。コストは運転開始前に必要な資本費と、人件費や保守など運転開始後にかかる運転維持費に分けられる。2012年のFIT開始以降に導入された111件の小型風力発電事業の統計を取ると、運転開始前に必要な資本費の平均値は137万円/kW、中央値は128万円/kWとなっており、政府の想定値である125万円/kWとほぼ同水準になっている。運転維持費の想定値は0円としていたが、既に運転を開始している21件の案件から算出したところ、平均値は2.7万円/kW、中央値は1.8万円/kWとなった。運転維持費が想定よりかさんでいるものの、コスト面については総合的におおむね想定内といえる。一方で20kW以上の風力などと比較すると、コストの低減は進んでいない傾向にある。

 今回の委員会で小型風力の価格区分を撤廃する方針となった大きな理由が、もう1つの重要な指標である設備利用率の問題だ。認定データおよび2016年6月〜2017年5月の1年間に費用負担調整機関に報告された発電電力量から、FIT制度下で稼働している小型風力発電の設備利用率を調査したところ、全体の平均値は9.1%、中央値では7.6%となり、これまでFIT価格を決める根拠の1つとしていた政府の想定値である16.7%を大きく下回る結果となった。2015年度以降に運転開始した比較的新しい設備の中央値も9.9%と下回っている。実際のところ、大半の事業では設備利用率は10%に満たないというのが現実のようだ。

小型風力の資本費、運転維持費、設備利用率の分布 出典:資源エネルギー庁

 委員会ではこうした現状の実際の設備利用率から機械的に算出すると、小型風力事業で投資回収可能なFIT価格は、120円/kWh程度になるという試算が出されている。このことから「もし仮に2030年までに小型風力の発電コストを30円/kWh以下まで低減できたとしても、現在の電力市場価格を考慮すると、一般的な用途としてはFIT制度からの自立化は困難と考えられるのではないか」という意見が出た。さらに、55円/kWhという高い価格設定が、コストの高止まりにつながっているという指摘もあった。

 これらの背景から、自家消費や防災用、離島での活用など特殊用途としてFIT制度外で小型風力の導入を進めていくことの意義は認めつつも、現状FITからの自立が困難とみられる事業用の小型風力について「55円/kWhといった高価格での新規認定を行い続けることは適当とはいえないのではないか」とし、今後は20kW以上の風力発電と同区分として取り扱う方針が示された。

 FIT制度はあくまでも、再生可能エネルギーの普及を促すための施策であり、長期的には制度から自立した事業・産業として成立することが理想だ。小型風力のFIT認定数は、2017年3月末時点で既に6400件(出力ベースで12万kW)ある。同年9月末時点で339件(出力ベースで5400kW)が運転を開始しており、委員会では「既に小型風力がFIT制度からの自立できるかを判断するに十分なデータがあつまっているのではないか」としている。正式な決定はこれからだが、少なくとも現状の55円/kWhというFIT価格が今後も維持される見込みは限りなく小さくなった。

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